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第34話 体調不良 ①
「晴人さ~ん、起きてくださ~い」
シャッと遮光カーテンが開かれると、窓から入る日差しで晴人は眩しそうに、より瞑る。
夜勤明けとハードな業務で晴人の体はクタクタで、自宅に帰ってきてから昼の3時時まで寝続けていた。
流石にもう起きないと次は夜眠れなくなり、次の日勤に響いてしまう。
瑞稀は何度も何度も優しく起こしていたが、全く起きる気配がない。
本当は寝かせてあげたい気持ちもあったが、瑞稀は心を鬼して晴人を起しにきた。
季節は春を過ぎ、夏も終わりつつある残暑厳しい9月。
少なくなってきたが、蝉の鳴き声もまだ聞こえてくる。
婚約の話は、みんなにはまだ秘密にしておき、番になった時に話そうということになった。
そしてその時、1ヶ月遅れの瑞稀と晴人が付き合い始めて1年の記念をしようと二人で話していた。
5月にきた瑞稀のヒートは、周期的にいえば8月に来る予定だったが、まだきていない。
まだ始まって二回しか来ていないヒート。
ホルモンバランスが不安定になり、ヒートの周期が定まらないことが多いことと、ホルモンバランスの変化で体調を崩すこともあるとネットや本で書いてあった。
その症状は瑞稀も例外ではなく……。
実は晴人を心配させないようにと詳しい症状は伝えていなかったが、最近、食欲が落ちたり、胸焼けがあったり、熱が体にこもる感じがあるといった体調不良があった。
だが晴人には「夏の疲れが出てるかもしれない」とだけ伝えていた。
「瑞稀、今日は体調どう?」
まだ目が開けられない晴人だったが、まず最初に瑞稀の体のことを聞いた。
「今日はなぜかレモネードが無性に飲みたくて、ポテトもすごく食べたくなったので、買いに行ってきました」
「レモネードとポテトはおいしかった?」
「はい。ポテトはLサイズ1つ、一人で食べちゃいました」
えへへと瑞稀は恥ずかしそうに笑う。
「今日は食べられてよかった」
少し痩せてしまった瑞稀を抱き寄せると、
「あ~、癒される……」
晴人は瑞稀の香りをスンスンと吸い込む。
これは晴人が起きる前の儀式みたいなものになっている。
「もう……それ恥ずかしいです……」
毎日のことなのに、瑞稀は毎日恥ずかしがってしまう。
「今日も瑞稀の可愛い姿がみられて、俺は本当に幸せ者だよ」
晴人はそう言いながら、もそもそと起き上がり、「おはよ」と瑞稀の額にキスをすると洗面に向かい、服を着替え、その間に瑞稀は食事の盛り付ける。
「いただきます」
「いただきます」
二人手を合わせて、食べ始めた。
どんなに忙しくても、家にいる間、お互いが起きている時の食事は自然と一緒に食べている。
「今日の鮭、美味しい」
鮭を一口食べた晴人の口が綻ぶ。
「本当ですか?その鮭、スーパーの鮮魚コーナーの人オススメだったんです。晴人さんお魚好きだから、美味しいお魚食べてもらいたくて」
以前から、瑞稀は晴人の健康のことをよく考え料理をしてくれている。
レパートリーも増え、和食で薄味が好きな晴人のため、出汁をしっかりととった料理を作る。
瑞稀の体調管理のおかげで、最近、晴人の体調は絶好調だ。
「それでは、行ってきます」
今日は瑞稀が仕事で、晴人が休みの日。
仕事に行く瑞稀は玄関で靴を履くと背伸びをし、離れるのが名残惜しそうにしている晴人の頬にキスをする。
「体調悪くなったら、すぐに連絡して」
心配そうな晴人に、
「はい」
と笑顔で答える。
「気をつけて」
今度は晴人が瑞稀の頬にキスをする。
「行ってきます」
瑞稀は元気よく家を出た。
夕方の5時過ぎだと言うのに外はまだまだ暑く、夜から雨の予報で湿度が高い。
むわぁんとした空気の中歩いていると、瑞稀の目の前が一瞬真っ白になり、倒れそうになった。
まただ。
晴人に言うと心配するので言っていないが、最近立ちくらみも多い。
そして今日は特にひどい。
このままお店に立ったら、本当に倒れてしまうかもしれない……。
瑞稀はオーナーに、「病院に行きたいので、出勤を少し遅らせてもらってもいいですか?」と連絡を入れると、「時間気にせず行っておいで」と言われたので、店の近くにある病院に行くことにした。
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