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第36話 体調不良 ③
看護師に渡された地図とファイルを手に、瑞稀は産科へと向かう。
産科の受付に診察券とファイルを渡し、待合の椅子に座った。
待合にはお腹の大きな女性や男性が座っている。
どの人も幸せそうで、愛しそうに大きくなったお腹に触ったりもしている。
「成瀬さん、問診表の記入お願いします」
看護師が持ってきたボードを受け取ると表に、チェックを入れている。
書きながら、視界に入ってくる人たちが皆んな幸せそうなのに、自分は妊娠を怖がっていることが情けなかったし、悪党のように感じた。
「成瀬さん、どうぞ」
名前を呼ばれると、若い女性医師が座っていた。
問診票と先ほど内科で受け取った資料に、医師は目を通す。
「では簡単な質問をしますね」
いくつかの項目の質問に答えた後、妊娠検査に向かう。
瑞稀は指示された通りに進むと、すぐに名前が呼ばれ、緊張のあまりドアを引く手が震えた。
大きく深呼吸をし、医師の前にある椅子に腰をかけると、
「おめでとうございます。妊娠されています」
!!!
にこやかに微笑む医師の顔を、瑞稀は見ることができなかった。
本当は喜ぶべきことなのに、この先の不安で胸が痛い。
こんなことを感じてしまう自分が、酷くひどい人間に思える。
「次は、内心と触診、エコー診断に入りますね」
診察用の椅子に座り、診察を受けた。
診察を受けていると、ついさっきまでの自分の体と、今の体はまるで別人のように感じる。
エコーを撮るため、まだ大きくないお腹にジェルを塗り、医師は器具を当てた。
器具をお腹の上で動かしていくと、黒い画面に小さな影ようなものが映る。
「この子が、あなたの赤ちゃんですよ」
でもそれは本当に小さなもので……。
「小さいんですね……」
見たままの当たり前のことが口から出た。
「そうですよ。まだ小さいですが、きちんと心臓も動いてますし、日々成長しています」
「……」
「泣かないでください。大丈夫です。赤ちゃんは元気ですよ」
「え……?」
瑞稀は自分の頬に触れた。
頬は涙で濡れていて、瞳からは次々に涙が溢れている。
「不安なこともあると思います。でも私たちが全力でサポートしますので、安心してくださいね」
医師の微笑みは、瑞稀の心を少しだけ軽くした。
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