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第53話 雪の日の出会い ①

 同僚たちの心遣いで派遣の仕事を早く上がらせてもらったにも関わらず、雪の中、瑞稀は全力で走っていた。 せっかく早く上がらせてもらったのに、雪が吹雪いて電車が遅れるなんて……。 このままじゃ保育園の閉園時間に間に合わない! でもなんとか間に合わせないと!  時計の針は6時50分。  7時までの保育園なので、閉園まであと10分。  全力で走れば間に合う時間。  アスファルトに雪が積もり始め、足元が滑りそうになる。  首に巻いているマフラーが邪魔になりはずすと、リュックの中に押し込み走り続けた。   間に合った!    瑞稀が保育園の前についたのは閉園4分前。  大きく肩で息をしながら、瑞稀が保育園のチャイムを鳴らす。 『は~い。お帰りなさい』  インターフォン越しに、保育士の声がする。  ガチャリとドアの鍵が開いた音がすると、いそいで瑞稀はドアを開け、千景のいる部屋に急ぐ。 「遅くなってすみません!」  瑞稀が保育室に入ると、 「ママ!」  元気いっぱいな千景が瑞稀に抱きつく。 「ごめんね遅くなって……」  瑞稀が千景の頭を撫でると、 「ううん。今日の延長さんはね、雫くんと一緒に難しいパズルができて、すっごく楽しかったよ。ほら見て」  千景は瑞稀の手を引き、100ピースの完成したパズルを見せる。 「ね、すごいでしょ?」  自信満々な顔で千景は瑞稀を見た。 「本当だ!こんなに大きなパズルできたんだ」  元々パズル好きな千景だったが、こんなにピース数が多いものを完成させたことはなく、今回作ったパズルは千景がいつか完成させたいパズルの一つだった。 「雫くん凄いんだよ。どんどんパズル入れていくんだよ」  保育士の背中に隠れながらこちらを見ている雫を、尊敬の眼差しで千景が見ると、しずくは恥ずかしそうに頬を赤らめ、またすぐに保育士の背後に隠れてしまう。    本当は千景を迎えに行ったらすぐに帰ろうと思っていた瑞稀だったが、雫が1人、保育園で迎えを待つと思うと、心細くなってしまうのではないかと、雫の迎えが来るまで待とうと思った。 「雫くん凄いんだね。パズル好き?」  瑞稀は体をかがめ、雫と同じ目線になるようにする。 「うん。好き。今度恐竜のパズル買ってもらったら、昴くんと一緒にするんだ」  雫はキラキラした瞳で瑞稀を見た。 『昴くん』 雫くんのお友達かな? 「千景くんのママもパズル、好き?」 「うん。好きだよ」  瑞稀がそこまで言った時、 ——ピンポーン——  保育園のチャイムが鳴った。  保育士がモニターでチャイムを鳴らした人物を確認すると、瑞稀の時と同じように「お帰りなさい」とドアの鍵を開ける。 「遅くなってすみません!」  瑞稀と同じように焦った顔で、保育室に質のいいスーツを着た30代ほどの男性が入ってきた。 「あ!昴くん!」  嬉しそうに雫が迎えにきた昴に駆け寄る。

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