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第56話 雪の日の出会い ④
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昴の言うように、瑞稀が保育園についた時より雪が道路に積もり、風と雪が合わさって視界も悪かった。
昴と瑞稀、そして二人の子供たちは昴が待たせていた車に乗り込んだ。
車の運転席には運転手らしき人が座っている。
「ご自宅まで送ります」
助手席に座った昴が、後部座席に座る瑞稀に声をかける。
自宅まで送ってくれる……。
それは本当にありがたいし、悪い人にも見えないけど、今日初めて会った人に自宅の場所を知られるのもな……。
「あの、帰りにスーパーに寄ろうと思っていたので、スーパーまでお願いします」
当たり障りのないであろう返事をする。
「スーパーからご自宅は近いのですか?もし遠くならしばらく駐車場で待って、買い物が終わられ手からお送りしますが……」
昴はそこまで言い、「あっ!」と困った顔をした。
「初対面なのにご自宅の場所を聞いてしまって、すみません。あの、変な意味はないんです。ただ、この雪の中、子供と一緒に歩くのは大変かな?と思って…。あ、私、雫の叔父で内藤と言います。雫の母親が私の姉でして、妊娠中の姉の代わりに雫をむ迎えにきただけで、決して怪しいものではなくて……。あ~なんて言えばいいか……。やっぱり不審者に見えますよね……」
本当に困ったように、昴は頭を掻いたので、瑞稀はフフフと笑ってしまった。
「不審者になんて見えないですよ。雫くんの叔父様だったんですね。私は千景の母で成瀬と言います。確かにこの雪の中、買い物をして千景と手を繋ぐのは難しので、買い物はまた後日にします」
「え?大丈夫なんですか?」
「はい。急ぎませんので」
「それじゃあ、どこまでお送りしたら良いですか?」
「それでは、この近くのドラッグまでお願いします。そこまで送っていただけましたら、家まですぐなので」
実はそれほど自宅から近いわけではなかったが、ドラッグストアまで送ってもらえれば、あとは幅の広い歩道を歩くだけなので、雪道でも危険はない。
「ではその店までお送りします。店名教えていただいてもよろしいですか?」
瑞稀が店名を伝えると、車は走り出す。
瑞稀と同じく後部座席に座っている千景と雫は、一緒に帰れたことが嬉しいようで、二人手を繋いで大好きな戦隊モノの話をしている。
「成瀬さん、ご趣味はなんですか?」
「え?」
いきなり昴にお見合いの時のような質問をされ、瑞稀は戸惑った。
「趣味、ですか? 全然上達しませんが、料理をすることが好きです」
こんな感じの答えでいいのかな?
瑞稀が答えると、
「私も料理が好きなんです」
昴はシートベルトをしているにもかかわらず、後部座席に座る瑞稀の方に体ごと向ける。
「因みに何料理がお得意ですか?」
また昴からの質問。
!ーーーー
「特に何料理とかはないですが、唐揚げとかハンバーグとか……。どうしても子供が好きなメニューになってしまいます」
「唐揚げとハンバーグ、私も好きです」
昴はキラキラした目で瑞稀を見るが、圧が凄い。
「そう、なんですね……」
「ええ。美味しいですよね、唐揚げにハンバーグ」
「ええ……」
「コツとか、あるんですか?」
「コツですか?多分皆さんされてると思いますが、唐揚げは下味をしっかりつけることと、ハンバーグは玉ねぎをよく炒めて、粗熱を取ってからミンチと混ぜること、かと……」
「そうんですね。凄い!」
どうしてそんなにキラキラした目で見られているのか、なにが凄いのかわからないが、とにかく昴は瑞稀の話を一字一句漏らすまいと、身を乗り出して聞いている。
「そうだよ。ママのご飯は、ぜ~んぶ美味しいよ。僕、パパいないから、ママのご飯いっぱい食べて大きくなったら、僕がママを守ってあげるんだ」
千景が胸を張った。
千景がそんなことを思ってくれてたなんて……。
瑞稀の目頭が熱くなる。
「え? 千景くん、パパいないの?」
驚いたように昴が聞くと、
「うん、いないよ。僕とママだけ」
千景は屈託の笑顔を浮かべた。
その笑い方、晴人さんそっくり。
ふと晴人の笑い顔を思い出し、懐かしくなる。
今、晴人さんはどうしてるんだろう?
もうお子さんはいらっしゃるんだろうか?
ご実家の病院は継がれたのかな?
この4年。
晴人のことを思い出さない日はなかった。
はじめのうちは、晴人のことを思い出すと涙が溢れてきたが、時が経つにつれ、晴人が幸せな家庭を築き暮らしている姿を願うようになっていた。
「成瀬さん……あの、随分不躾 なことをお聞きしますが……今、お付き合いしている方は……」
昴がそこまで言った時、
「あ!」
千景がドラッグストアを指差す。
そのまま車は店の駐車場で停まる。
「ママ、すぐに着いちゃったね」
と残念そうな千景。
「歩いたら遠いのに、車だとすぐに着いちゃったね」
瑞稀は千景と自分の鞄を手に持つ。
「雫くん、今日は千景と遊んでくれてありがとう。また仲良くしてやってね」
雫の方を瑞稀が見ると、雫は恥ずかしそうに頷いた。
「今日はわざわざ送ってくださり、ありがとうございます。本当に助かりました」
微笑みを浮かべ、瑞稀が礼を言うと、
「いえいえ、そんな……」
昴は顔を赤くした。
「千景、皆さんにご挨拶して」
「雫くん、昴くん、運転してくれたお兄ちゃん、ありがとうございました」
千景はペコリと下げ二人は降り、駐車場を出て行く車を見送った。
そう言えば、内藤さんは結局何が聞きたかったんんだろう?
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