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第67話 山崎晴人 ③

「晴人はどうして瑞稀くんを探してたんだった?どうしていなくなったのか?とかの質問じゃなくて、瑞稀くんとどうしたかったんっだ?」 「それは……」 どうしていなくなったじゃなくて……。 「一緒にいたかったんです。ずっと一緒に……」 一緒にいられるためなら、なんでもしたかった。 「ほら、冷静に考えたら答えは出てるじゃないか。それを伝えたらいいんじゃないか?」 「……」 「瑞稀くんのことが心配だったんだろ?何か困ってたなら頼って欲しかったし、気付いてあげられなかった自分をせめてたんだろ?それを伝えるんじゃないのか?」 「……はい……」  晴人は自分の不甲斐なさと、感情に任せて当たり散らしていた自分が情けなくなり、自然と組んでいた腕を解き、小刻みに腕を叩いていた動作も無くなっていた。 「どうだ?落ち着いたか?」 「はい。ご迷惑をおかけしました……」  晴人は昴に頭を下げる。 「ならよかったよ」  人懐っこく昴は笑った。  そして少し困ったように眉間に皺を寄せた。 「まさか成瀬さんが瑞稀くんだったなんて……。知っていれば……」  そこまで言って、昴は視線を落とした。 「昨日会って一目惚れしたの、瑞稀くん……だった……」 「!」  昴の発言に晴人は虚を衝かれた。 「え……? 今なんて……」  晴人は昴が何を言っているか意味を理解するのに数秒かかった。 「……」 『そんなこと、あるのか?』  と、 『そんなことあってたまるか…』  が晴人の中でぐるぐる回る。 ちょっと待ってくれ。 昴先輩が一目惚れした相手には、確か子どもがいたって……! 「待ってください! 瑞稀には子どもがいるんですか!?」  驚きのあまり、晴人が立ち上がったが、昴はそれを止めなかった。 「ああ。『千景くん』な。雫と同い年だから5歳だ」 瑞稀に子ども!? そんな……。 誰の子だ? もしかして出て行った時、瑞稀には本当に相手がいて、そいつの子どもなのか!?  驚きと誰に対してかわからない怒りが込み上げてくる。 「まさかとは思うが、瑞稀くんに子どもがいたことに怒りを感じたりしてないだろうな?」 「え?」  気持ちを見透かされたようおで、ドキっとした。 「瑞稀くんに子どもがいたことに驚きはしただろうが、それは事実として受け止めろ。それが出来ないなら、瑞稀くんには近づくな」  いつもプライベートでは晴人に対して、よき兄のような昴だが、今、晴人を見る目は鋭い。 「よく考えてみろ。晴人と居なかった間に瑞稀くんがどうしていようが、それは瑞稀くんの自由であって、そのことを晴人がとやかく言ったり、ましては怒るのはおかしな話しだとは思わないか?」  昴にそう(たしな)められた。 確かにそうだ。 瑞稀がどんなことをどう決断しようと、それは瑞稀自身で決めたこと。 俺は現実を受け止めるだけだ。 「はい、わかりました」 「……。よし! この話はここまで。もうすぐ掃除をしに来てくれる。その後は社外の役員やら取引先との顔合わせだ。役員はどいつも癖があるって聞いたことがあるな……。今日は誰がくる?」  さっきまで、苛立った晴人を諭し、落ち着かせ、次はもうすでに仕事の話だ。 切り替えが凄い。  よき先輩としても、よき親友としても、よき兄のような存在としても、上司で大企業の副社長としても昴は尊敬できると晴人は思う。 「今日訪問されるのは……」  晴人はスケジュールが入っているタブレットを手に、もう一度今日の予定を昴に話だした。

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