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第71話 山崎晴人 ⑦
「瑞稀……元気にしてた?」
あたりさわりのない。
でも一番聞きたかったことを聞いたこと。
「はい」
俯きいているので、表情が見えない。
でもわかる。声色で。
緊張して、警戒して、敵に隙を作らないようにしている時の声。
警戒されてる。
初めて会った時、晴人を見た瑞稀は緊張していたが、警戒されたことはなかった。
胸が痛かった。
瑞稀に自分は敵だと認識されている。
世界中、誰よりも愛しいる人に拒否され…。
瑞稀の笑った顔が思い浮かばれる。
あの笑顔は、もう俺には向けられないのか?
俺は見られないのか……?
こんなに警戒されるとは、思っていなかった。
やっぱり、俺は瑞稀に何かしてしまったんだ。
あの優しい瑞稀が心を閉ざしてしまうほどの何か……。
原因を知りたい。
でも知って、どうにもならないことだったら?
知ってしまったからこそ、もう会えなくなってしまったら……。
今はそれが怖い……。
今にも消えてなくなりそうな瑞稀との関係の糸を、晴人は切れてしまわないようにと必死に掴んでいる。
だけど、どうしも気になることがある。
聞いてはいけないと、わかっているのに……。
「千景君は元気?」
しまったと思った時には、もう聞いてしまっていた。
「え!?」
弾かれたように顔を上げた瑞稀の顔は、驚きと同時に不安そうな表情だった。
「副社長から聞いたんだ。瑞稀には『千景君』っていう男の子がいるって」
|副社長《先輩》から聞いたことは、隠せない。
「はい、元気です」
瑞稀は緊張で顔が引き攣りそうになりながらも、晴人から目を逸らさない。
「4歳……だって?」
「はい。4月で5歳になります」
「そうなんだ。瑞稀に似て可愛いんだろうな」
瑞稀と一緒にいた時、もし子どもができたら、絶対に瑞稀似がいいと思っていた。
色白で綺麗なブルーの瞳で、輝くような銀色の髪。
芯はしっかりした強さを保ちつつ、優しい子。
まだ見ぬ2人の子供のことを思い浮かべ『でもそれじゃあ瑞稀そのままじゃないか』と自分自身に笑ってしまっていた……。
「僕には似てないですよ。どちらかといえば……」
そこまで言って、瑞稀は慌てて口を押さえた。
「父親似?」
「はい……」
恐る恐る瑞稀が答える。
「父親って、瑞稀が手紙に書いていた『好きな人』?」
自分で聞いておきながら、瑞稀の好きな人のことを聞くと、胸が締めつけられるように苦しい。
「……」
長い沈黙の後、
「はい……」
瑞稀ら答えた。
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