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第72話 山崎晴人 ⑧
父親似。
……。
瑞稀が好きになった人じゃないか……。
喜ばしいことじゃないか……。
そう思うが苦しさや、ゴリゴリとした石のようなものが胸の中に生まれた。
「その人とは、今も一緒にいるの?」
「今は……いません。千景が生まれる前に別れました」
ー今は一緒にいないー
ー千景くんが生まれる前に別れたー
なんてやつだ!
一番そばにいてやらないと行けない時に、そばにいないなんて!
昴に『そうやって瑞稀くんにも怒鳴るつもりなのか!?』嗜められていなかったら、声を荒げていたかもしれない。
晴人は大きく深呼吸をし落ち着くために、左手薬指にはめられている指輪を撫でた。
「そう……」
そう言うと、晴人は運ばれてきたコーヒーを一口飲む。
今は瑞稀や千景君のために、俺ができることを考えよう。
本当はすぐに助けてあげられるよう、近くで見守りたいけど、瑞稀が嫌がるのではないか?
じゃあせめて、瑞稀の仕事が楽になるように金銭的な援助だけでも…。
「俺がこんなこと言える立場じゃないことは分かってるけど、もし瑞稀がよければ俺に援助させてっもらえないか?」
「え?」
瑞稀の眉がピクリと動く。
「瑞稀一人で子育てをするのは大変だと思う。だから俺ができることがあれば……」
「それ、どういう意味ですか?」
晴人の言葉を瑞稀は遮った。
「僕たちは晴人さんが思うような裕福な家ではないと思います。でも、今まで二人で頑張ってきたんです。大きくなった千景も、僕を手伝ってくれたり……。僕らなりに頑張ってるんです。なのに援助ってどう言うことですか? 僕たち、そんなに可哀想ですか?」
今にも泣き出しそうなのを我慢した瑞稀が、晴人を睨む。
だがすぐに悲しくて泣き出しそうになるのを我慢するように、奥歯を噛み締める。
俺はなんてことを!
自分の傲慢さに気がついたが、もう遅い。
少しでも瑞稀と千景が楽になればと思って提案したことではあったが、今まで一生懸命頑張ってきた瑞稀からすれば、急に金銭的な援助を持ち出され、馬鹿にされたと捉えられても仕方ない。
考えればわかることなのに、俺はなんてことを……。
なんて言えばいいかわからずだまってしまっていると、
「ごめんなさい……。あんな言い方してしまって……。晴人さんが言ってくださったことは感謝しています。でも自己満足かもしれませんが、僕は僕の力で千景を育てていきたいんです……」
晴人を攻めることのない瑞稀の言葉。
「そんな! そんなつもりじゃないんだ。ただ俺は瑞稀と千景くんの力になりたくて……。なんて言えば…」
大切な時に、言葉が何も浮かばない自分が、忌々しかった。
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