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湖の異変

<sideルーファス> 私は公務の休日に王家所有の森に出かけることにした。 パーティー続きで気が滅入っていて一人で行きたいところであるが、流石に国王が一人で出歩くわけにもいかず、父方の従兄弟であり、騎士団長でもあるレナルドに護衛をしてもらいながら共に愛馬で向かった。 歳の近いレナルドとは気心の知れた間柄だ。 公の場では敬称付きで堅苦しいが、二人っきりなら砕けた話し方でいい。 本当に気楽に話せる兄弟のような仲だ。 「ルーファス、風が気持ちいいな。こんな天気のいい日にあの森に行けるとはな」 「ああ、レナルドがついてきてくれて助かったよ。城にいればクリフの小言がうるさくて仕方ないからな」 「まぁそういうなよ。クリフとしては前国王との約束を守りたいんだろう? お前の伴侶を見つけてくれってずっと言われていたそうじゃないか」 「それはそうだが……しかたないだろう。見つからないものはどうしようもない。あの指輪がぴったり嵌まる者以外との結婚は認めないと父上から言われていたしな。それに、別に私が結婚しなくとも、お前の子が指輪を持って生まれてきたのだから後継には問題ないのだし……」 私が伴侶を見つけるまでは自分は結婚しないと言い張っていたレナルドは、クリフや宰相たちから王家存続のためにと説得されて、5年ほど前に侯爵令嬢と結婚した。 それから立て続けに子どもが生まれ、第3子の長男・ウォーレスが指輪を持って生まれた。 この瞬間、次代の王は決定したのだ。 私はリスティア王国存続のためにこの子の誕生を心から喜びつつも、次代の王が生まれた今、ますます私の伴侶は見つからないのではと思うようになったのだ。 ウォーレスの指輪は色鮮やかなルビーの指輪。 美しいことに変わりないが私の指輪と比べると珍しいとまではいえない。 きっとウォーレスの伴侶はすぐに見つかるだろう。 やはり私の珍しい指輪はこの人生は一人で過ごせという神からの進言だったのだろう。 私はそう確信していた。 「まぁまぁ、今日は久しぶりの休養だ。何もかも忘れてゆっくり楽しもうぜ」 レナルドの明るい声は私の心を元気づけてくれる。 私たちは森の中にある湖を目指して馬を走らせた。 「ああ、いい気持ちだな」 「そうだな。久々にのんびりした気分だ」 ここにいる間は国王でも騎士団長でもない。 ただの親友として過ごすことができる心地良い時間だ。 「食事にするか?」 「ああ、頼む」 そういうと、レナルドは持ってきた荷物から手際よく料理を並べた。 「これ、料理長がお前のために作った特製のサンドイッチだぞ」 「サムが?」 「ああ、ここのところ疲れているようだからしっかり食べて休養してもらいたいってクリフが料理長に頼んだらしいぞ。それでそのサンドイッチを用意したらしい。これ、お前の好物だろう? クリフもお前を追い詰めてしまっていることはわかってるんだよ。ただ、前国王の遺言を守りたい一心なんだ」 「そうか、クリフが……」 「さぁ、食べようぜ」 私はクリフとサムの優しさに感謝しながら、久しぶりに満足するほど食べ、ゆったりとした時間を過ごした。 「なぁ、生涯の相手は指輪が教えてくれると言っていたが、どうやってわかるんだ?」 レナルドは興味津々といった様子で尋ねてきたが、そんなもの知っていれば私の伴侶はとうに見つかっている。 だが、ウォーレスのためにも父として知っておきたいのだろう。 「父上がそれだけは何度聞いても教えてくれなかったからわからないんだ。今となっては本当に指輪が教えてくれるのかどうかも怪しいところだよ」 「だが、エルヴィスさまはそれでクレアさまが生涯の伴侶だとわかったのだろう? やはり何かあるんじゃないか?」 「その何かがわからんことにはな……。少なくとも今までその何かを感じたことは一度もないぞ」 「お前の伴侶は一体どこにいるんだろうな? いるならそろそろ出てきてほしいよな」 「ああ、そうだな。本当にいるなら……な」 自虐的に話していると、突然静かなはずの王家の湖が突如、目を開けていられないほどの光を放ち始めた。 「わぁーっ! なんだ、これはっ!」 「ルーファス、これは一体どういうことだ?」 「わからん! こんなこと初めてだ! くそっ、眩しすぎて何も見えないぞ!! レナルド、とりあえずそこを動くな! 見えない中、闇雲に動くのは危険だ!」 この場所には人を襲うような野獣もおらず、ましてやこんな奇怪な現象が起こることなど今までに一度も聞いたことがない。 一体この場所で何が起こってるんだ? どれくらいその現象が続いていただろう……。 フッと光が消えた気配がして、私は恐る恐る目を開けた。 あまりの激しい光にまだ目が慣れていないのかぼんやりしているが、うっすら確認した様子ではとりあえず元の湖に戻ったようだ。 「一体なんだったんだ? 今のは」 「わからんが、とりあえず調べておいた方がいいだろう。何かしら原因はあるはずだ」 「じゃあ、湖の周囲を見回ってみるか」 私たちは愛馬に乗り、周囲の探索を始めた。 そのときだった。 私たちのいた場所のちょうど対角線に小さな物体を感じたのは。 「レナルド、あそこに何かいるぞ。見えるか?」 「ああ、何か動いてるな。人間か? 王家所有の湖に近づくものなどいないはずだがな」 「いや、あの小ささだ。小動物の類かも知れないが、とりあえず行ってみよう。もしかしたらさっきの光と関係があるかも知れない。ザカリー、驚かせないように静かに走れよ」 そういうと賢いザカリーは静かに、それでも足早にその物体へと近づいていった。 「なぁ、あれ……人間じゃないか?」 「そうだな……やけに小さいが子どもか? だが、子どもがこんな場所に一人で来られるわけがないのだが……」 「見たところ馬もいないようだし、そもそもあんなに小さくては馬に乗れないだろう」 「確かに。レナルド、ちょっとここで降りて近づくぞ」 私はレナルドにそう声をかけてザカリーから降り、ゆっくりとその者に近づき声をかけた。 「ここで何をしている?」 すると、ビクッと身体を震わせて振り向いた彼を見た瞬間、身体中の血が沸き立つような今までに感じたことのない感覚を味わった。 急にグッと胸元が熱くなった気がして、スッとその場所に手を差し込むと指輪が熱を持ち、キラキラと光を放っているのが見えた。 こんなの初めてだ。 もしかして……彼が、私の……生涯の伴侶、なのか……?

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