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これって……夢、じゃないの?

<side月坂 蓮> 恐る恐る振り返ると、すごく大きな二人の男性が立っていた。 見るからに日本人だとは思えないその顔立ちと、まるで中世ヨーロッパのような衣装を身に纏った彼らの一人は訝しんだ様子で僕を見ていた。 けれど僕の近くにいたもう一人の彼は僕を怪しむというよりは茫然とした表情で見ていて微動だにしなかった。 彼らは一体何者なんだろう……。 「あ、あの……僕……」 怯えながらも必死に声をかけようとすると、すぐ近くにいた彼は突然僕に片膝をついて手を伸ばした。 「怖がらせるつもりはない。安心してくれ」 さっきの声とは全く違う、柔らかさを含んだ声で優しく声をかけられ、見知らぬ場所にやってきて不安でいっぱいだった僕は思わず彼の手をとってしまった。 「ああ、小さな手だな。やはり君は私の生涯の伴侶……」 「えっ? 生涯の伴侶、って……?」 彼の話している意味がわからずに聞き返すと、彼はもう片方の手を上着の内側に突っ込み何かを取り出した。 広げた手の中にあったのは見たこともないほど美しい宝石のついた指輪。 それがキラキラと美しい光を放っている。 「わぁーっ、綺麗っ!」 あまりの美しさに感嘆の声を漏らすと、彼はにっこりと微笑みながら僕の左手を取った。 「えっ?」 その流れるような仕草に拒むこともできずに見つめていると、彼はそのまま僕の薬指にその指輪を嵌めた。 スルスルとまるで誂えたように僕の指に嵌った指輪を見て、嬉しそうに笑顔を見せる彼と、後ろにいた彼の驚愕の表情があまりにも対照的で印象に残った。 どれほどの値段なのかもわからないほど高価な指輪が自分の指に嵌まっていることに緊張する。 万が一落としたりしたら大変だと思って、慌てて指から引き抜こうとしたけれど、 「あ、あの……こんな綺麗な指輪、僕には……あれ? えっ? なんで? ぬ、抜けないっ!」 あれほど何の引っかかりもなくスルスルと嵌まった指輪は、まるで強力な接着剤でくっついたかのようにびくともしなくなった。 それを見て指輪を嵌めてくれた彼は満面の笑顔を見せ、 「やはり君は私の生涯の伴侶なのだな。ああ、会えるのをずっと待っていた! なんと幸せなのだろう!」 と声を震わせながら、僕をぎゅっと抱きしめた。 僕は彼の腕の中に閉じ込められながら、今起こっていることがまだ理解できていない。 これは夢なんだとさえ思っている。 けれど、彼の温もりと匂いが夢じゃないことを表しているようでどうしたらいいのかわからない。 「おい、ルーファス! 伴侶に出会えて嬉しいのはわかるが、彼は何もわかっていない様子だぞ。とりあえず落ち着いて話をしたほうがいいんじゃないか」 後ろの彼の言葉に、ルーファスさんと呼ばれた彼はゆっくりと腕の力を抜きつつも僕を離そうとはしない。 結局彼は僕を抱きしめたまま立ち上がった。 「わぁっ!」 あまりの高さに視界が違いすぎて思わず彼の首に抱きつくと、 「ああ、そのまま抱きついていてくれ。絶対に落としたりしないから」 と嬉しそうに笑顔を見せた。 「ルーファス、城に連れ帰る前に話をしたほうがいい。あっちの休憩小屋に行こう」 「ああ、わかった。ザカリー!」 彼が誰かを呼ぶと、少し離れた場所から馬が駆けてくる。 ああ、ザカリーって馬の名前か。 すごっ、馬をこんな近くで見るのは初めてだ。 「君の馬はどこにいる?」 「えっ……あの、いません……」 「そうか。じゃあ、私と一緒に乗ろう」 「えっ? 一緒にって――わぁっ!」 彼は何をどうやったのかもわからないくらいの早業で、気づけば僕は彼に抱きしめられたまま馬の上にいた。 「すぐに着くから私に捕まっていたらいい」 初めての馬に緊張しまくりの僕は彼に言われた通り、ぎゅっと抱きついた。 「ふふっ。可愛らしいな。ザカリー、私の可愛い伴侶を怖がらせるなよ」 と馬の首をポンポンと撫でると馬はゆっくりと動き始めた。 少しづつスピードが出てきたけれど、僕には何の振動もないのは彼が抱きしめてくれているおかげだろうか。 「見えるか? あそこで休憩しよう」 声をかけられそっちに目をやると、休憩小屋とは名ばかりの大きな家が立っていた。 「すごっ、おっきぃ……」 「ぐっ――!!」 僕がポツリと呟いた言葉に何故か彼が苦しそうに悶えている。 「あの……大丈夫、ですか?」 「あ、ああ。問題ない。気にしないでいい」 そう言っていたものの、まだ彼の顔は赤かった。 大きな家の前で馬が止まり、彼は僕を抱きかかえたまま器用に馬から飛び降りた。 本当、凄すぎる……。 もう一人の彼がさっと扉を開けると、彼は僕を下ろすこともなくそのまま家の中へと入っていった。 「あ、あの……僕、歩けますよ」 「悪いが、私が離したくないんだ。このまま私の腕の中にいてくれないか?」 悲しげな表情でそう言われたら無理やり下りるわけにもいかない。 僕が小さく頷くと彼は嬉しそうに中へ進んだ。 「わぁーっ、すごく広い!!」 一人暮らしの僕の家の何十倍もの広いリビングが出てきて驚いていると、彼はふふっと楽しそうに笑って、僕を抱いたままソファーに腰を下ろした。 「何か飲み物でもいれよう。何がいい?」 「えっと……あの、あなたと同じもので」 なんて答えていいかわからず、同じものをお願いしておけばいいだろうと思ったのだけど、 「あなた……くぅ――っ!!」 彼はまた何やらブツブツと悶えながら、 「レナルド! ジュースを淹れてやってくれ。私も同じものを頼む」 彼がそういうとすぐにもう一人の彼が僕と彼のジュース、そして、自分のコーヒーを持って戻ってきた。 「さぁ、どうぞ」 渡された飲み物がものすごく美味しそうに見えて、僕はいただきますというとそのままゴクっと飲み干してしまった。 自分でも気づかないうちに喉がカラカラになっていたようだ。 「ふふっ。飲みっぷりがいいな。お代わりを持ってこよう」 「あ、すみません……ありがとうございます」 笑顔でお礼を言っていると、彼に強く抱きしめられた。 「えっ? どうしたんですか?」 「君がレナルドと楽しそうに話していたから嫉妬してしまったんだ」 「嫉妬、ですか? そんな……」 ただお礼を言っただけなんだけど……。 っていうか、なんだろう……すごく可愛いぞ。

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