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レンの覚悟と甘い誘惑

<side月坂蓮> これ、使ってもいいのかな? 一人で脱衣所に行くと、棚に大きなバスタオルを見つけてそっと手に取ると、想像以上のふわふわな手触りに 「わっ、すごっ!」 と声をあげてしまった。 考えてみれば、王さまの使うタオルなんだもんね。 そりゃあこんなふわふわなの当たり前か。 こんなので拭くのに慣れちゃったら、今まで使ってたやつが使えなくなりそうだな。 ばさっと広げて頭から被ると、その柔らかな感触に身悶えてしまいそうになる。 すごいな……。 昔、ウサギを抱っこした時みたいなあのもふもふ感。 いや、逆に僕がふわふわに抱っこされてるみたいな感じだ。 うわーっ、気持ち良すぎる。 しかも吸水力ものすごいし、このタオル最強かも! ああーっ、ずっとこれに包まれていたい……。 「レン?」 「ひゃぁ――っ!」 もふもふに包まれていたら、突然聞こえたルーファスさんの声に思わず変な声が出てしまった。 「どうした? 何かあったか?」 どうしよう……変な声を出してしまったせいで心配かけてしまってる。 ここは正直に言うべき? いやタオル如きでこんなにはしゃいでたなんて……ただでさえ10歳だと思われてたのに、やっぱり子どもだと思われちゃうかな? でも、隠すのもおかしいしな……。 「い、いえ……このタオルが……ものすごく気持ちよくって、感動していただけ、なんです」 「そうか……気に入ってもらえたのならよかった。じゃあ、これはレン専用にしておこう」 「わぁっ、いいんですか?」 「ああ、もちろんだよ。さぁ、風邪を引くといけないからこれを……」 そういって僕に被せてくれたのは、映画で見かけたことがある、なんて言ったか…ああ、ネグリジェだ。 上から被るやつとズボンのセットみたい。 「くっ――! 可愛いっ!」 「うわっ、おっきぃな。これ、ルーファスさんのですか?」 「あ、ああ。そうだ。レンには下はいらないようだな」 ルーファスさんの言う通り、上から被ったワンピースみたいな奴だけでちょうど膝丈くらいあるし、どうせズボンを穿いたところで歩けなくなるのがオチだ。 袖も長いけどこっちは折り曲げればいいしな。 「じゃあ、こっちだけ借りますね」」 「ああ。好きなだけ着てくれていいぞ」 なんだかすごく嬉しそうだ。 自分の着替え貸すのがそんなに楽しいのかな? そういえば、いつの間にか後から脱衣所に来たはずのルーファスさんは全ての着替えを済ませていた。 「じゃあ、部屋に戻ろう」 手を引かれ、部屋まで戻ると風呂上がりには水分補給をした方がいいとグラスに入った水を手渡された。 それをゴクゴクと飲み干すと、適温の水が身体中に染み渡っていくような感覚を覚える。 「ふぅー、美味しいです」 「よかった。今日はいろんなことがあって疲れただろう。そろそろ休もうか。明日は私の公務も休みになっている。レンが行きたいところに案内するから好きな場所を言ってみてくれ」 「あの、じゃあ……その、僕がいた世界に戻れるかもしれない方法を探しに行きたいです」 「――っ、レンっ! それは――」 「ごめんなさい……ルーファスさんにはこんなによくしてもらって、お世話になってるのに。でも、僕……元に戻れる方法があるのかないのかそれが早く知りたくて……。この世界にはすごく興味があるんですけどそれを知らないままで、楽しめそうにないっていうか……みんなを騙しているようで申し訳ないっていうか……うまくいえないんですけど……」 散々楽しんだ挙句に、元の世界に帰ったりするのはなんかルール違反な気がするんだ。 なんだかいいとこどりしているようで自分自身が許せなくなる。 この世界を見て回るのは、本当に自分がこの世界に……いや、ルーファスさんのそばにいたいんだってその意識を持ってからがいい。 それがルーファスさんに対しても、そして、ルーファスさんの生涯の伴侶を待ってくれていた人たちに対しても誠実な気がする。 「レンの気持ちはわかった。じゃあ、明日は王家の書庫に連れて行こう。あそこにはこの王家の全ての書物が揃っている。そこで元の世界に戻る方法が見つからなければ、帰る方法はないと思ってくれ」 「はい。わかりました」 僕の言葉に頷くと、ルーファスさんは寝室へと連れて行ってくれた。 ルーファスさんが5人でも寝られそうなほど広いベッドに横たわると、柔らかくて暖かい布団をかけてくれた。 「レン、寒くないか?」 「はい。大丈夫です」 「今はいいが、明け方は寒くなることがある。その時は私の布団を奪い取ってくれていいからな。私は風邪など引かないから心配しないでいい」 「ふふっ。わかりました」 ルーファスさんの楽しい冗談に耳を傾けていると、あまりにも寝心地の良いベッドにすぐに眠りがやってきた。 僕はそのまま深い深い眠りについてしまっていた。 <sideルーファス> 用意させておいた赤子用のおくるみに、レンが気持ちよさそうに包まれているのを見た時、あまりの可愛さに興奮しそうになった。 ついさっき三度も……いや、風呂場の中でいえば六度も蜜を出したと言うのに、すぐに昂りそうになった愚息に喝を入れながら、レンに寝巻きを着せる。 もちろん私のものだ。 だが上着を被せたところで、あまりの可愛さに必死に押し殺してきた声が漏れてしまった。 こんなにも可愛いのだから仕方があるまい。 小さなレンは私の上着だけで膝丈になり、裾からレンの色白で細く長い脚が見える。 この姿を見られるのが私だけだと言うことに心の中で狂喜乱舞しつつ、誰にも見られないうちにさっさと自室へと連れ帰った。 自室に連れ帰りすぐにレンに飲ませたのは、消化吸収を助ける薬とほんの少しの睡眠薬入りの水。 恐るべき体験をしたレンが魘されたりしないように、深い眠りへと|誘《いざな》ってくれるはずだ。 それに何より、レンが眠ってくれていたら私もレンに淫らな思いを抱かずに済む。 無自覚に煽られて限界を突破し、レンを無理やり手篭めにしてしまうのは絶対に避けなければいけないことだからな。 明日、私の仕事が休みだと告げ、レンにどこか行きたいところはないかと尋ねると、元の世界に帰る方法を探しに行きたいと言い出した。 その言葉に私はひどくショックを受けた。 やはりレンの心は私には向いていないのだと、そうはっきり言われたようで辛かった。 だが、レンは一生懸命言葉を選びながら、思いの丈を吐露した。 そこにはレンなりの覚悟というか、決意が見えたような気がしたのだ。 レンは絶対に帰りたいと思っているわけではないのだと。 方法があるかないかを知りたいのだと。 そう言っていると感じた。 だから私は、レンを明日王家の書庫に連れていくことを決めたのだ。 そこでどのような結果が出るのかはわからない。 それは私の賭けでもある。 それでもレンの覚悟や決意を無駄にはしたくない。 その思いでいっぱいだった。 表情が柔らかくなったレンを連れ、寝室にいきベッドに横たわる。 風呂に入って温まったばかりのレンからは甘く芳しい匂いが漂ってくる。 これはあの石鹸の香りではない。 レン自身から漂っている匂いだ。 ああ、なんといい匂いなのだろう。 その甘やかな匂いに陥落しそうになりながらも、レンに布団をかけた。 暖かな布団をかけたが細く華奢なレンは寒いと感じるかもしれない。 寒ければ私の布団を奪ってくれていいからというと、レンは冗談とでも思ったのか嬉しそうに笑いながら、そのまま眠りに落ちていった。 どうやらもう薬が効いたようだ。 レンの穏やかで可愛らしい寝息を聞きながら、私も眠りについた。 寒さに震えたレンが暖を求めて私の胸元に擦り寄ってきて、私の匂いを嗅ぎながら幸せそうに眠る姿に悶絶するまであと数時間……。

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