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王家の書庫

<side月坂蓮> 書庫へと連れて行ってもらおうと部屋から出ると、湖で出会ったレナルドさんが扉の前に立っていた。 ものすごく丁寧な言葉遣いでルーファスさんに話しているのを不思議に思いながら、一緒に書庫まで行ってくれることになった。 書庫に入り、鍵をかけるとレナルドさんはすぐに昨日のような話し方に変わった。 どうしてだろうと気になって尋ねてみると、私的な場と公の場で話し方を変えているのだと教えてくれた。 仲良しの従兄弟なのに、公式の場では守らないといけないようなルールのようなものが存在するんだな。 でも考えてみれば、僕がいた世界の王族や皇族の人たちも公式の場ではお互いに敬語を話していたけれど、きっとあの人たちも家族しかいない場所では気楽に話しているんだろうし、そういうものなんだろうな。 それにしてもレナルドさんって、騎士団長さんだったんだ……。 ってことはとてつもなく強い人ってこと? だって、騎士団のトップなんだもんね。 もしかしたらこの国で一番強いとか? すごいな……。 でも、こんな仲良しさんなのに公式の場では身分を弁えて話すとか、間違えちゃったりしないのかな。 思わず気楽に喋っちゃったりとか。 でも、ルーファスさんもレナルドさんと気楽に話している時、すっごく楽しそうなんだよね。 いいなぁ。 僕は転校ばっかりしてたから、こんな気楽に話せる友達なんてなかなかできなかったし、お父さんもお母さんも一人っ子だったから、従兄弟もいないしな……。 そもそも親戚付き合いもほとんどなかったから、従兄弟がいてもここまで仲良しにはなれなかっただろうな。 こういう間柄って羨ましい……。 僕の言葉にルーファスさんもレナルドさんもなんだか真剣な表情で僕を見つめていた。 「あ、ごめんなさい。余計な話をしてしまって……。あの、どこから探したらいいですか?」 「ああ、そうだな。確か、歴代の王と王妃が残していた書物が集められていたはずだ。レナルド、あれはあっちだったか?」 「そうだな。とりあえずそこから調べてみるか」 王妃さまになった人って、僕と同じようにピッタリと指輪が嵌まった人ってことだよね? みんな、国王さまの伴侶に選ばれて嬉しかったんだろうな。 そうだよね、だって王妃さまになれるんだもん。 僕みたいに結婚を嫌がったりする人なんていなかったのかも……。 「レン、ここだ。ほら、これは私の父上と母上が残した日記だな」 「それぞれあるんですね。ああっ、ちゃんと読めます。よかった。もしかしたら字は読めないのかもって心配してたんです」 「そう言われればそうだな。最初から私たちと会話ができていたし。これも宝石の威力なのかもしれないな」 そう言われて、スッと指輪に目をやると指輪がキラキラと光っているように見えた。 やっぱりこの指輪が何か意味を持っているんだろうか。 「両親の日記を読むことに少し抵抗があるが、何か手掛かりがあるかもしれないからな」 そう言って、ルーファスさんはお父さんの日記を読み始めると、しばらく経ってハッとした表情で僕に本を差し出した。 「ほら、レン。ここを読んでみてくれ」 ルーファスさんのお父さんの日記には <私の息子ルーファスが握って生まれてきた指輪を受け取ってくれるのは一体誰なのか……。この世のものとは思えないあの宝石がピッタリと嵌まる相手はもしかしたらこの世のものではないのではないか……。いつか突然現れたりするのかもしれない。そういう気がしてならない> と書かれていた。 「やはり、父上はわかっておられたのだ。私の指輪がピッタリ嵌まる子が異世界よりやってくることを……」 「あの、そんなにこの指輪は特別な宝石なのですか?」 「そうだな。少なくともこの国でこんなにもさまざまな色に変わる美しい宝石は見たことがない。そうだろう、レナルド」 「ああ。私の息子も指輪を握って生まれてきたが、色鮮やかな赤いルビーだった。素晴らしい輝きをしていたが、珍しいとまではいえないな」 「ちなみに母上も大きなダイヤモンドの指輪をつけていたが、大きさや輝きはともかく、ダイヤモンド自体はさほど珍しいものではない」 そうなんだ……。 そんなにこれは珍しいものだったんだ。 でも確かに綺麗すぎて魅入っちゃうもんな。 本当、神さまが作った宝石みたい。 「とにかく、こうやって歴代の王と王妃の書物を見ていけば、もしかしたら何か手掛かりが見つかるかもしれないぞ。手分けして探してみよう」 レナルドさんにそう言われて、僕は一番古そうなものから順々に読んでいくことにした。 それからどれくらい読み耽っていただろう。 かなりの量を読んだと思ったけれど、このリスティア王国の歴史はかなり長いようで、本はまだまだ無限にあるように見える。 今のところまだ、これぞ! という手がかりは見つからず、僕は少し疲れてきてしまった。 「レン休憩しよう。ずっと書庫にいるから、目も疲れているだろう。中庭で食事でもしようか」 「中庭ですか? わぁ、行ってみたいです」 きっと気分転換を考えてくれたのだろう。 見つからないとイライラしちゃう前にこうして声をかけてくれて本当に嬉しい。 やっぱりルーファスさんって優しいな。

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