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正直な気持ち
「イシュメル、生涯の伴侶が異世界から来た王が私の前にも二人いると言ったな?」
「はい。申し上げました」
「その二人の伴侶はどうしたのだ? 素直にここに留まったか? それとも元の世界に戻ったのか?」
「その質問にお答えする前に、陛下がどのような理由からそのことをお知りになりたいのかお尋ねしてもよろしいですか?」
イシュメルの鋭い視線に一瞬言葉に詰まるが、ここは正直に話さねばイシュメルは教えてはくれないだろう。
私が国王だとしてもそれは変わらない。
それが王城専属医師として代々王家に仕えてきたスウェンソン家としての誇りなのだから……。
「私の生涯の伴侶であるこのレンには……あちらにまだ健在の両親がいる。それなのにその両親と突然引き離され、私のためにたった一人でこのリスティア王国に連れてこられたのだ。何もわからず、知らない世界で勝手に私の伴侶だと言われ戸惑うのは当然だろう。レンがこの国にいたくない、元の世界に帰りたいと望むならば私はその願いを叶えてあげたい。だから、お前がその方法を知っているならば、レンのために教えて欲しいのだ」
「……陛下は、それでよろしいのですか? こんなにも待ち続けた生涯の伴侶をようやく手に入れ、やっと幸せを掴んだというのに……。それをみすみす手放すようなことをなさって後悔されませんか?」
「するに決まっているだろう!」
イシュメルの言葉に思わず大きな声が出てしまった。
レンを起こしてしまったかと焦ったが、レンは微動だにせずぐっすりと眠っているようだった。
ホッと息を吐きながら、レンを見つめていると
「ならば、そのような方法などないと最初から仰ればよかったのではありませんか?」
と冷静な声で再び問いかけられ、息を呑んだ。
「――っ! 私も、そう言いたかった……。だが、元の世界に帰りたいと泣くレンを見ていたら私の思いなどどうでもいいと思ったのだ。私はレンに幸せになってほしい。レンの幸せのためならば、私はどうなってもいいのだ。元々、生涯の伴侶に出会うことは諦めていた。それを束の間であったとしても、レンと出会い、幸せな時間を過ごすことができた。それだけで……私は幸せになれたのだ。だから、私はレンを幸せにしてやりたい。ただそれだけだ」
「生涯の伴侶と離れた後、こちらに残された王が非業の最期を遂げることになるとしてもそう言い切れますか?」
「やはりそうなのだな。私自身、レンと離れれば生きてはいけないとわかっていた。だが、例え自分の命と引き換えにしても、レンが望むようにしてやりたい。レンの幸せを思えば、私の命など微々たるものだ。だから、頼む。レンを元の世界に帰す方法を教えてくれ」
キッパリとそう言い切った瞬間、イシュメルが柔らかな微笑みを見せた。
と同時に、
「ルーファスさん! 僕……ここにいます!」
というレンの声が響き渡った。
突然聞こえたレンの声に私は慌ててレンを見ると、レンは身体を起こし私に両手を伸ばしていた。
「――っ! レンっ!!」
何がどうなっているかもわからないまま、さっと身体が動きレンを強く抱きしめた。
「ルーファスさんっ! 死んじゃいやだっ! だから、僕を帰さないで!」
「――っ! レンっ! 私のことなど気にしなくとも良いのだ! 私はレンのためならば――」
「僕のためなら尚更です! 僕、ルーファスさんと一緒にいたい! だからっ、だから……僕を帰さないで……」
涙を流しながら必死に私にしがみついてくるレンに溢れんばかりの愛おしさが募る。
ああ、どうしてこの子はこんなにも……。
「レン……もう一度だけ聞く。これからあとは気持ちが変わっても絶対に離せないから。だから、もう一度だけレンの気持ちを聞かせてくれ……」
私の言葉に涙を潤ませ頷くレンを見つめながら
「レン、お前は元の世界に帰りたいか? それともここに留まって私のそばにいてくれるか?」
と尋ねると、レンはゆっくりと口を開き
「僕は元の世界には帰らない。ルーファスさんのそばで一緒にいたい」
そうはっきりと言い切ってくれた。
「ああ――っ、レンっ!! もう絶対に手放したりしない! 死ぬまでずっと一緒だ!」
レンの言葉が嬉しくて、気づけば私も涙を流しながらレンを強く抱きしめていた。
「あー、ゴホッ、ゴホッ。少しよろしいでしょうか?」
その声に腕の中にいるレンがビクリと震えた。
ああ、そういえばイシュメルがいるのを忘れていたな。
「悪い、嬉しすぎて忘れていた」
「いえ、お気になさらず。生涯のご伴侶さまがこちらに残られるとご決断されましたところで、私から御二方にお話ししなければならないことがございます」
「それは何だ? もしや、悪いことか?」
そう尋ねるとレンの身体がピクリと震えた。
「ああ、レン。怖がらせてしまったな。申し訳ない。心配せずとも大丈夫だ。私が必ずレンを守る」
「ルーファスさん……」
レンは震えながらも、
「僕だって、ルーファスさんを守りますから安心してください!」
と言ってくれた。
「ふふっ。レンが私を守ってくれるのか。それは心強いな」
「はい。だって、僕はルーファスさんの伴侶ですから……」
そうにっこりと笑うレンの笑顔を見て私はどんな未来が待ち受けようとも、この笑顔を守り抜くのだと心に誓った。
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