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甘い蜜の意味
<sideルーファス>
「陛下。イシュメルにございます」
「入れ」
寝室のベッドにレンを寝かせた状態で、イシュメルを中へと呼び寄せた。
「何かお困りのことでもございましたか?」
「いや、そうではない。レンの身体についてイシュメルに話しておかねばならないことができたのでな、其方を呼んだのだ」
「レンさまのお身体……もしや、私の調合した薬が合わなかったのでしょうか?」
「其方の薬に間違いはない。心配するな。実はな、蜜の話なのだが……」
「はっ? 蜜、とはあの蜜 でございますか?」
私の言葉にイシュメルは驚き、レンは顔を赤らめていたが話さないわけにはいかない。
「ああ、そうだ。あの蜜だが……其方はあの蜜が甘く感じることがある、と聞いたことがあるか?」
「――っ!! 甘く? ま、さか……甘く、感じられたのですか?」
さらに目を見開いて驚きの表情を見せるイシュメルを見ながら、私は大きく頷いた。
「お互いの蜜だけを甘く感じたのだ。これは何か意味があるのか?」
「は、はい。まさか、私がこの素晴らしい歴史に立ち会えるとは思いもしませんでした」
「歴史? それはどういう意味だ?」
「このリスティア王国で数百年に一組、最高の相性を持ったご夫夫 が現れると言われているのです。お互いに甘い蜜を有し、その蜜のおかげで痛みを感じることはないと言われておりますが、まさか陛下とレンさまがそのご夫夫でいらっしゃるとは……」
イシュメルの手が震えている。
これはそれほどまでに素晴らしい出来事なのだ。
「ならば、私とレンは……」
「はい。すぐにでもご夫夫として身体をお繋ぎいただくことは可能でございます」
「そうか……。やはりな」
「と、申しますと……?」
「いや、先ほど風呂場でレンの後孔を解していたのだが、レンが一切痛みを感じる様子もなく後孔がほぐれていたのでな。其方の薬が効いているにしては早すぎると思っていたのだ」
「そうでございましたか……」
イシュメルが横たわるレンに目を向けると、レンは恥ずかしそうに布団に潜り込んだ。
ふふっ。実に可愛らしい。
「イシュメル……悪いが、この話は其方の心の中だけに留めておいてはくれないか?」
「理由をお聞かせいただいてもよろしゅうございますか?」
「ああ、レンが恥ずかしいと申すのだ」
「恥ずかしい?」
「レンは奥ゆかしいのでな、閨に関わることは人に知られたくないようだ。私もレンのことを想像されたくもない。だから、今回の件は其方の心の中だけに留めておいてくれぬか?」
イシュメルは私の言葉に大きく頷いた。
「そう仰ると思っておりました。レンさまの前に異世界からお越しになったお方も、閨での出来事は時の国王さまと私ども医師だけにお話しくださったようでございますから。レンさま、ご安心くださいませ。私は医師として決して秘密を漏らしたりはいたしません。ですから、これからも何かございましたら何なりとお話しくださいませ」
「イシュメルさん……はい。ありがとうございます」
レンは嬉しそうに微笑んでいたが、その笑顔すらイシュメルに見せたくないと思ってしまう私は本当に狭量だ。
ここまで心の狭い人間だとは思っていなかったのだがな。
愛しい人ができるとこうも変わってしまうのだな……。
父上に見られたら、きっと驚いたことだろう。
いや、自分とそっくりだと笑うかもしれないな。
「レン、これで其方との婚礼をひと月待つ必要が無くなったわけだが、レンはどうしたい? レンが私との結婚まで時間をかけてゆっくりと考えたいというのなら、予定通りひと月後にするとしよう。もし、レンがすぐにでも私と夫夫になってくれる気持ちがあるのなら、私はすぐにでもレンと結婚したい。私はレンの気持ちを尊重する。どうしたい?」
「あの、僕……」
言いにくそうに黙ってしまったレンを前に、
「言いにくいのであれば、私は席を外していようか? イシュメルになら話せるだろう?」
そういうと、レンは少し悩みながらも小さく頷いた。
「わかった。寝室の外に出ているから、終わったら声をかけてくれ」
「ありがとうございます、ルーファスさん……」
レンの優しげな声に、悪いようにはならないと自分に言い聞かせながらゆっくりと寝室を出た。
声が聞こえないとは思いつつも、私は扉の前から離れることはできなかった。
<side月坂蓮>
パタンと扉が閉まって、途端に寂しさが込み上げる。
そういえば、ずっとそばにいてくれたんだよね。
まさかあの甘い蜜にそんな秘密が隠されているなんて思いもしなかった。
だけど、ちっとも痛くなかったどころか、ものすごく気持ちよかったし相性がいいと言われればそうなのかもしれないと思う。
これで僕が血塗れになることがないと分かれば、すぐにでも結婚式となるのは想像がついた。
だって、もともと僕の……を解すための期間だったんだから。
ルーファスさんがすぐにでもと思うのは無理もない。
でも……僕、怖いんだ。
ルーファスさんの指を入れられただけでもあんなに気持ち良くなっちゃって、おかしくなっちゃったのに……。
あのルーファスさんのおっきなモノ挿入 られたら、ルーファスさんに引かれちゃうくらいはしたなく声をあげてしまうんじゃないかって……。
それを見て、もし嫌われちゃったら……?
あれ以上に乱れる姿なんて見せたくない……そう思ってしまった。
だから、ルーファスさんがすぐにでも結婚式を挙げたいと言ってくれたことに頷けなかったんだ。
もし、あんなにも快感を感じなくなるような薬があったら……それを使わせてもらって、ルーファスさんと愛し合いたい。
そうしたら、ルーファスさんに引かれて嫌われちゃうような事態にはならないかもしれない。
イシュメルさんにそれを聞いて見たかったんだ。
「レンさま。何かお悩み事がございますか?」
僕はイシュメルさんに縋るように思いを伝えてみた。
すると黙って話を聞いてくれていたイシュメルさんはにっこりと微笑んで口を開いた。
「レンさま。それは取り越し苦労でございますよ」
「えっ? 取り越し、苦労?」
「はい。陛下にとって、自分の愛撫でレンさまが気持ちよくなられることは至極幸せなことなのです。レンさまがお心のままに感じて声をお上げになることが陛下の最高の幸せなのですよ。レンさまがどれだけ乱れようとも、陛下のレンさまへの想いが増すことはあっても決して減る事など有り得ません」
「本当ですか?」
「はい。これまでずっと王家の歴史を拝見してきたスウェンソン家の私が太鼓判を押します。ルーファスさまはレンさまのどんなお姿をご覧になっても、愛しいと仰いますよ」
その笑顔に心の中の憂いがさーっと晴れるような気がした。
「イシュメルさん、ありがとうございます! 僕、ルーファスさんに自分で話します」
「では、私はお暇 いたします。何かありましたらいつでもお声がけください」
「はい」
僕の言葉にイシュメルさんはすぐに寝室を出ると、入れ替わるようにルーファスさんが入ってきた。
「レン……」
「ルーファスさんっ! 僕、すぐにでもルーファスさんと結婚したいっ!!」
そう叫んだ瞬間、僕の身体はルーファスさんの大きな身体に包み込まれていた。
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