44 / 59

運命の花

<side月坂蓮> 「これはどうですか?」 「こ、これは……パドマ……レンが何故これを?」 「パドマ? これは(はす)の花です。蓮のことをレンとも呼ぶので、僕の名前のレンはこの花の名前から付けられたんですよ」 「な――っ、そんなことが……?」 僕を感じられるものがいいとリクエストされて、一番最初に思いついたのが蓮の花だった。 月坂という苗字の月も可愛くていいかななんて思ったけれど、月は見るたびに形を変えてしまうのが心変わりを表しそうだし、それに何より月は女性の象徴だと聞いたことがある。 それよりは綺麗な花を大きく開き、上品な香りを放つ、僕の名前と同じ蓮の花をルーファスさんにつけてもらえるならそれが一番嬉しいと思った。 けれど、ルーファスさんは僕の絵を見て驚きの表情をみせ、そのまま言葉に詰まったようだった。 「あの……気に入らないなら、他の絵でも……」 「ちが――っ、違うんだっ! このパドマの花は……私の徽章(きしょう)なのだよ。ほら」 そう言って見せてくれたのは、ルーファスさんの腰につけている短刀。 その()の部分にはっきりと蓮の花の絵が描かれていた。 「本当だ!!」 「私が握って生まれてきたその宝石(いし)が赤と白、そして青色に変わるだろう? 湖に咲くこのパドマの花は朝の光を浴びて白く輝き、昼は水の色を映して青くなり、そして、夕日を受けて赤く輝く美しい花なのだ。その中でも夕日を受けて赤く輝くパドマが一番美しいと言われていて、そこから私はルーファスという名がつけられたのだ。ルーファスはこのリスティア王国の古語で赤いという意味があるんだよ」 ルーファスさんが教えてくれる話があまりにも凄すぎて、今度は僕の方が言葉に詰まってしまった。 「あの……じゃあ、僕たち二人の名前が同じ花から付けられたということですか……?」 「ああ、そういうことになるな」 「すごいっ! これって、偶然……?」 「いや、ここまで重なれば必然だろう。私たちはもう出会った時から……いや、生まれた時から一生を共にする運命にあったんだ」 ただ単に偶然が重なったのかもしれない……。 それでも僕はルーファスさんの話したように運命だと思いたい。 だって、こうやって巡り会えたのがそもそも運命なのだから……。 「レン……この花をお揃いで付けてはくれぬか?」 「はい。僕もルーファスさんとお揃いの花を付けたいです」 「ああっ! レンっ!! 私は本当に幸せだ」 本当に幸せそうな表情で僕を抱きしめてくれるルーファスさんがとても愛おしくて僕は嬉しくてたまらなかった。 「これをどこに付けますか? それによってお花の大きさを変えないと」 「そうだな、見える位置でないと意味がないからな。あまり大きすぎるとレンの小さな手には似合わなくなってしまうから……そうだな、手の甲の親指と人差し指の下に一輪の蓮の花を付けようか」 親指と人差し指の下……ああ、ここならいつでも目に入っていいかも! 「いいですね!! じゃあ、そこにしましょう。この貼り絵に直接絵を描いていくんですか?」 「ああ、そうだ。描き上がったら言ってくれ。私がうまく貼り付ける。レンはそれを見て、私のを付けてくれるか?」 「わっ、結構重要ですね! わかりました、頑張ります!!」 「レン、これはどれくらいで描き終わる?」 「それくらいのサイズならすぐに描けますよ」 「そうか。なら、少し待っていてくれ。クリフに結婚式を明日にするように指示するから」 そう言って急いで扉へと向かった。 そうか、僕の絵がいつ完成するかわからなかったからクリフさんを待たせていたんだ。 ルーファスさんは扉の外で待っていたクリフさんと話してすぐに僕のところに戻ってきた。 「レン、待たせたな。じゃあ、頼む」 僕はドキドキしながら、貼り絵用の筆を手に取り蓮の花を描き始めた。 ルーファスさんの名前の意味でもある赤い蓮の花を可愛らしいサイズで二つ描きあげて、 「これでどうですか?」 と見せると、ルーファスさんは 「素晴らしい出来だな!!」 と何度も僕の描いた絵に目を落としては嬉しそうに微笑んでいた。 「これを貼ると、もう取れなくなるんですか?」 「ああ、貼って1分ほどで皮膚と一体化するんだ」 「本当すごいなぁ……」 こんなの向こうにはなかったな……。 多分。 「じゃあ、レンのから付けるぞ。どっちの手にする?」 「どちらの手でも構わないんですか?」 「ああ、問題ない」 「じゃあ、左手にはルーファスさんからもらった指輪があるので、貼り絵は右手にします」 「そうか、そうだな。じゃあ右手だ!」 ルーファスさんが絵を持ち上げ、僕の手にそっと乗せると、本当に1分ほどでスッと吸い込まれるように皮膚に移った。 「わぁっ! 本当に移ってる! すごい!!」 なんか自分の絵が自分の身体から一生取れないなんて……不思議だな。 「じゃあ、レン。次は私のも頼むよ」 そう言って右手を出そうとしたルーファスさんに 「あの、ルーファスさんは左手で……」 というと、少し驚いているように見えた。 「あ、あの……その方が手を繋いだときに重なり合うかなって……」 お揃いが嫌だと勘違いさせてしまったのかと思って慌てて理由を告げると、ルーファスさんの表情が一気に明るくなった。 「そういうことか! ああ、ならそうしよう! レンがそう思ってくれて嬉しいよ」 喜んでくれるルーファスさんを前に僕は震える手で自分の描いた絵を取り、そっとルーファスさんの左手に乗せた。 じっと見ていると、同じようにスッとルーファスさんの手に移っていく。 すごいな、何度見ても不思議だ。 ルーファスさんを見ると、感慨深そうな表情で嬉しそうに蓮の花を見つめていた。

ともだちにシェアしよう!