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俺の初恋がいつまでも終わらない【後編】

「えーーーーっと、だなぁ……」 こくり、とルスが相槌を打つ。 くそう、真剣に俺の話聞いてるルス可愛いな!! 「お、同い年で……真面目で、優しい人……かな」 「へえ、同い年か。少し意外だな」 ルスの太い眉が、くいっと上がる。 ちょっと驚いたような顔も可愛いな。 「そうかぁ?」 俺がいつものようにヘラっと笑って返せば、ルスは真面目な顔で深く頷いた。 「ああ。お前は同年代の子達には興味がないのかと思っていたよ」 うーん。これは、どう受け取ればいいんだ……? 後ろで隊員達がヒソヒソ話す声が聞こえる。 「同い年って、まさか……」 「いやでも隊長達は王防校からだろ……?」 ……お前ら、なんでそんな事知ってんだよ。 「隊長ーっ、どんな容姿の子だったんですかー?」 「はぁ?」 誰だよ、余計なこと言うの! 「それは、俺も気になるな」 「なっ!?」 なんで、ルス……。 気になるのか……? 俺の、好きな相手が……? どくりと跳ねた心臓が、いつまでもどくどくとうるさい。 「……っ、サ、サラサラの、黒髪で……笑うとすげぇ可愛い感じの……」 あの頃の、ほんの少し幼さの残るルストックの横顔が胸に蘇る。 まだあの頃は髪も下ろしてて、真ん中分けだったんだよな。 「ほう。そうなのか」 感心した様子のルストックの後ろで、また隊員達がヒソヒソやっている。 「サラサラなのか……?」 「意外だろ。隊長髪下ろすと結構長いしな」 「へぇー」 「俺、寝起きの隊長見たことある」 「寝起き?」 「あれだろ、ぼーっとしてるやつだろ?」 「隊長朝弱いよな」 「朝は、ホント頑張ってるよなぁ」 「分かる。支えたくなるよな」 おいおい……。 ルスが隊員達に愛されてて嬉しい反面、そんな無防備な顔を他の奴らに見せんなよ、という思いも湧く。 つか寝起きのルスとか俺も久々に見てぇな。 明日の朝はルスより早起きして、ルスの部屋行くか? 寮で一緒の部屋だった頃は、毎朝眺めてたのになぁ。 二段ベッドが壁際に縦に二つ、窓際に一段のベッドが二つ並べられた六人部屋で、ルスは窓際のベッドだった。 俺は壁際の上の段から、よくルスの顔を盗み見ていた。 目が覚めると、ルスはいつもムクリと起き上がり、しばらくベッドに座り込んでいる。 縦長の窓から差し込む朝日に、茶色がかった黒髪を揺らして、こしこしと目を擦る。 寝起きのぼんやりした顔は妙にあどけなくて、あれを俺だけの物にしたいと願ってしまった気持ちを、まだ鮮明に覚えてる。 あの頃だよな。 俺がルスに向けている思いが、友情じゃないってのに気付いたのは。 ルスが他の奴と親しげに話をしていれば、それが男だろうと女だろうと、どうしようもなく妬いてしまって。俺はこんなに心の狭い男だったのかと、自分で自分に呆れてしまう日々だった。 「そんでぇ、レインズ隊長はぁ、告白したんすかぁー?」 呂律の回らない、酔っぱらいの声。 隊員達にざわざわと動揺が走る。 「!?」 「おい、やめとけよ」 「あぁ? 何でだよぉ」 「いや、だって……」 悪いが、俺もこの辺で切り上げてもらわねーと困る。 本っ当に困る! 「そーそー、プライベートだろ? この話はもうここまでにしようぜ?」 いつものようにヘラっと笑って提案すれば、ルスが何やらしょんぼりと眉を下げた。 「なんだ、もう終わりなのか? 残念だな」 っ!? 残念なのか!? ルスが!?!? だってお前、あんま恋バナとか興味ねーだろ!? えっ、なんだよそれ、俺に興味あるって事か!? なんなんだよ、もうわけわかんなくなんだろ!? 「……なん、で、ルスが残念なんだよ……」 ぐるぐる回る頭のままで拗ねるように呟けば、ルスは酒の入ったほんのり赤い顔で、ふっと笑った。 「久々にお前の顔を見て、安心してしまったんだろうな。……ただ、お前の話をもっと聞きたかったんだよ」 他の隊員達に聞かせたくなかったのか、ルスは俺だけに聞こえる声で、囁くように告げた。 「……っ!!!」 ぐんぐん顔が熱くなる。 酒の席でなきゃ、俺だけ真っ赤になってるとこだ。 「こ……、告白は、してねーよ……」 ルスにだけ聞こえるように小さく答えれば、ルスは少し驚いた顔をした。 「しなかったのか? お前の告白を断るような子も居ないだろうに」 言いながら、ルスは俺の事を頭から爪先までじっと眺める。 「な……なんだよそれ……」 動揺が、口から溢れる。 「お前ほど見目が良くて性格も良い奴なら、誰にだって好かれそうなものだがな」 ルスに手放しで褒められて、俺は反射的に口を開いていた。 「じゃあ、ルスは俺が付き合ってくれっつったら、許してくれんのか?」 ヤバイ、突っ込みすぎた! 酒で判断力が鈍ったか、それとも久々に会ったルスに酔ってしまったのか。 焦る俺に、ルスは爽やかに笑って返した。 「ははは、そこでどうして俺なんだ。もっと可愛い子を誘って来い」 ……ああ、これは全然、気にしてないな……。 「……っ、そ……う、だな、あははは……ははは……」 なんとか乾いた笑いを返すと、ルスは「飲み過ぎなんじゃないか? その辺にしとけよ」と俺の体を心配してきた。 くそう。お前の方が倍以上飲んでるくせに、平気な顔しやがって……。 ルスが水を汲んでくれるのを断りきれずに、俺は受け取ったグラスの水をあおる。 チラと周囲を見れば、隊員達は俺達の小声での会話はまるで聞こえなかったような素振りで、こちらを見ている者は少ない。 だが耳を澄ませば、沢山の会話に混じってヒソヒソとした呟きが途切れ途切れに聞こえる。 「隊長、正直だよなぁ……」 「ルストック隊長に嘘吐けねーんだよな、うちの隊長」 「女性が相手だと、こっちがムカつくくらい余裕綽々なのにな」 「隊長はルストック隊長にホント弱いよな」 「なんであれで気付かないんだろうな」 「不思議だよな。うちの隊長も、別に鈍感ってわけじゃないんだけどなぁ……」 「そうそう、俺らの事はよく気付いてくれるよな?」 「そうだよな」 「自分の事には無頓着って事か?」 「付き合いが長すぎてってやつだろ」 「親友だっつってたもんな」 隊員達の言葉が耳に刺さる。 そうなんだよな……。 ルスは俺を『親友』だと思ってくれてる。 大親友だと、胸を張って言ってくれるんだよな……。 隣を見れば、ルスが「少しは落ち着いたか?」と俺を労わる言葉をかけてきた。 精悍な顔立ちのくっきりした眉が、俺を案じて心配そうに寄せられている。 それだけの事が、俺にはたまらなく嬉しい。 「ん、まあな」 と笑って答えれば、ルスも「そうか」と笑顔を見せた。 優しくて温かいこの笑顔を、俺はやっぱり、この世の何より愛しいと感じてしまう。 ……俺の初恋は、まだまだ終わりそうになかった。

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