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「俺がもし先に死んだら……」(1/3)
春の日の昼下がり。
明るい日差しの差し込む窓辺で、ルストックは窓を背にしたソファーへ深く腰をかけ、深みのあるワインレッドの革表紙の本を手にしていた。
茶色がかった黒髪を後ろに撫で付けた体格の良い武骨そうな男の指が、びっしりと字で埋め尽くされた本のページを静かにめくる。
その光景を、レインズはテーブル椅子から眺めていた。
食事用の椅子に逆向きに座り、背もたれに頬杖をついたレインズの頬には鮮やかな金髪がかかっている。
明るい金色に彩られた青く澄んだ瞳はまるで宝石のようだ。
煌めく青い瞳は瞬きひとつせず、じっと一点を……ルストックを見つめていた。
近頃老眼から読書中に眼鏡をかけはじめたルストックの、眼鏡姿を知る者は少ない。
レインズが一緒に選んで仕立てた丸いフォルムの黒縁メガネは、ルストックの生来の知的さに磨きをかけつつも、どこか優しげで愛らしい姿に仕上げていた。
ぱらり。と本をめくる音だけが聞こえる静かな部屋で、頬杖の男の頬がついに耐え切れず緩み切る。
(なんっっっっっだこれ、絵になり過ぎんだろ!?!?!?
俺のルスってば、可愛過ぎんじゃねーの!?
いや、これがな、ただ可愛いだけじゃねーんだよ。
分かるか?
清楚で可愛いのに、渋くて男前なわけ!!
渋くて可愛いとか、そんなん両立できんのルスしかいねーだろ!?!?
あーーー!!!
俺のルスは、渋可愛いが過ぎる!!!!!)
金髪碧眼の非常に整った顔立ちの男は、黙っていればルストックよりも知的に見える外見をしていたが、中身が少し残念だった。
椅子の背もたれの上で両腕を組んだレインズが、緩み切った顔を腕で隠すように背を丸めて言う。
「なあルス」
「……なんだ?」
ルストックの返事に少しだけ間があったのは、本に集中していたからだろうか。
「あ……、なんかいいとこだったか? 悪ぃな。急ぐ話じゃねーし、またにしとくわ」
レインズがぱたぱたと手を振る。
ルストックはそんなレインズをチラと見てから本を閉じ、眼鏡を外した。
呆れたように大きく息を吐きつつ杖を手に取った。
「そう気を遣うな。お前はそのうち心労で倒れたりしないだろうな? 二人だけの家で、対等な関係のお前が俺に話しかけるのを遠慮する必要がどこにある?」
ルストックはレインズの側へ歩み寄ると、ごつごつとした厚みのある手を伸ばした。
レインズの頭を優しく撫でた手は、そのまま頬の横で揺れる金の髪を指先に掬い、弄ぶ。
青い瞳が嬉しそうに綻ぶ様を、ルストックは満足そうに見下ろした。
「ん、じゃあ話すけどな? えーと、俺がもし、ルスより先に死んだら――」
レインズの言葉が不意に途切れる。
レインズの薄い唇はルストックに奪われていた。
一瞬大きく揺れた青い瞳がハッと我に返る。
「――っ、なんで口塞ぐんだよっ」
文句を言われてルストックは黒い瞳を伏せた。
「……」
「……ルス?」
「聞きたくない……」
「ぇ……?」
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