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「俺がもし先に死んだら……」(3/3)

ルスが俺につられるように小さく綻ぶ。 泣き笑いみたいな顔が、すげー可愛い。 ついつい、俺が守ってやんなきゃって気になっちゃうんだよなぁ。実際は、俺よりルスの方が心も体も強いんだけどさ。 「レイ……、お前に甘えても、いいか……?」 なっ……、なんだそれ。え? 俺に甘えてくれんの? ルスが?? 俺に??? 「おっ、おーよ。いくらでも甘えてくれていーぜ? べろんべろんに甘やかしてやるからさっ」 答えながら、喜びに緩む口元がどうにも抑えきれずに手で隠そうとする。と、横からルスの手が伸びて俺の手首をガッチリ掴んだ。 ん? ルスのもう片方の手は、いつの間にやら俺の顎をしっかりホールドしている。 「ルス……?」 尋ねる俺の眼を、ルスはひたと見据えたまま、顔を寄せてきた。 触れ合う唇。 ルスの厚い唇が、優しく俺の唇を撫でる。 何度も何度もそうっと触れてくるルスの仕草が切なくて、次第に胸が苦しくなってくる。 「……っ」 息の詰まった俺から、ルスはゆっくり顔を離すと、俺を見つめたままやたらと男らしく口端を持ち上げた。 「お前の涙は、俺が生きているうちにありったけ受け止めておこう」 ……それは、どういう意味だ? 「あのな、ルス。俺は泣きたいわけじゃねーからな?」 「そうか?」 ルスはなぜか意外そうに片眉を持ち上げると俺の背に手を回した。 「ル、ルスが俺を泣かせてーだけだろ!?」 「ああ。ベッドで、な」 「そこは否定してくれよ!」 思わず叫んだ俺を気にする様子もなく、ルスの手が俺の背骨を辿るように撫でる。ルスの熱が俺の背に滲んで広がると、それだけで俺の身体はルスが欲しくなる。 これじゃルスの思う壺じゃねーか。 こんないつでもルスの思う通りになると思われてんのは、正直ちょっと悔しい。 「……っ」 ルスの指が腰まで降りてくれば、勝手に腰が跳ねた。 「も……、なんで、すぐこーゆー事になんだよ……」 げんなりと吐いたつもりの息すら熱を帯びていて、俺はそれをルスに気付かれないよう精一杯顔を背けた。 「お前が可愛いせいだな」 クスリと小さく笑う声につられて、チラと視線だけでのぞけば、ルスが雄らしい色香を纏ってゆったりと笑う。 ううぅ、すんげぇ男前なんだけど!? 「そ……、そんな風に言えば、俺が許すと思ってんだろ」 精一杯平静を装って突っぱねた俺の言葉に、ルスはしょんぼりと項垂れる。 ちょっ、そんなしゅんとなるのはズルいだろ!? なんか俺が悲しませてるみてーじゃねーか。 「……ダメか?」 小さく首を傾げてルスが尋ねる。 めちゃくちゃ可愛い。 いや、だから、これに頷けばいいんだよ。 ここで俺が頭を縦に振れば、それだけでルスは諦めてくれる。 無理強いするような奴じゃねーんだからさ。 だから……。 「だ…………っ」 喉の奥で、返事が詰まる。 だってルスが、黒い小さな瞳で俺のことじっと見てんだよ。 俺のこと、欲しいって……。そんな目で。 ルスが俺を、求めてる……。 「ダメ…………じゃ、ねーけど……、さ……」 結局、俺に出来たのは、拗ねた子供みたいな素直じゃない返事だけだった。 情けなさと恥ずかしさに顔が熱くなる。 あー、もー……これ耳まで赤くなってるやつだろ。 くそぅ……。こんなことなら最初から何も言わない方がマシだったんじゃねーの……? 「お前は本当に、俺に甘いな」 「なんだよ、それ」 言い返した俺の唇を、ルスの分厚い唇が覆う。 ルスが祈るように目を閉じた。 どうか、俺より先に死なないでくれ。俺を置いていかないでくれ。と縋るルスの気配に、俺はルスの頭を抱き寄せる。 心配すんなって。 俺が生きといてやっからさ。 たとえ一緒に事故ったとしても、俺の方がルスより数分でも一秒でも長く生きててやるから。ルスが目を閉じるまで、俺が見ててやるから。 もう、そんな怖がることねーよ……。 口内に入り込み俺の内側の全てを埋め尽くそうとするルスの舌に、思考がぼやけて溶け始める。 「ん、……ぅ……」 あぁ……けど……。 ルスが、俺を失うのを……、こんなに……怖がってたなんて……。 熱い何かがせり上がってきて、涙が滲む。 俺の涙に気付いたルスが顔を離すと俺の涙を指先ですくう。 「ルス……」 ルスに離された唇が、自然とルスを呼ぶ。 「……レイ」 ルスは、熱に浮かされたような俺と違って、思い詰めたような顔で俺の名を呼び返した。 そっか。 ルスにとって俺は、それほど大事な存在なんだ……。 その事実に、喜びが胸から溢れ出して息が苦しい。 「レイ……。今日は俺の腕の中で、たっぷり啼いてくれ」 「……まてまてまて、その泣かせ方はちょっと違くないか? それにまだ外も明る――」 ルスが深く強く口付けてきて、俺の言葉は途切れた。

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