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包家の食卓②

「どう、煜瑾ちゃん?北京のお菓子はお口に合って?」  清明節当日は包家で過ごしたいと思った恭安楽は、その前に北京の実家に戻り、お土産をどっさり持って2日前に上海に帰ってきたところだった。  香りの良い北京の茉莉花茶(ジャスミンティー)を運んで来た恭安楽が、お気に入りの可愛い2人に、そう言って微笑みかけた。 「とっても美味しいです、おかあさま」  単に顔立ちが整っているだけではなく、純真無垢で、気品のある煜瑾の笑顔は、本当に天使のようで見る者を癒してしまう。  何とも言えない穏やかで、優しい気持ちで、包夫人は煜瑾の隣に腰を下ろした。  文維が手際よくティーカップをそれぞれの前に並べる。  それをまた煜瑾が、無邪気な様子で嬉しそうに受け取るのが、なんとも微笑ましく、その場にいた全員が幸せな気持ちになった。 「こっちのお菓子も美味しいよ」  小敏が恭安楽お手製のフロランタンを手にすると、可愛いいたずらっ子のように笑って口に入れた。 「北京の伝統菓子も、珍しくて美味しいですよ」  せっかくの包夫人の北京土産にケチが付かないよう、煜瑾が慌てて言い添えるが、それを笑い飛ばすように、恭安楽は言った。 「いいのよ。珍しいだけで、大して美味しい物じゃないし。でもね、私の若い頃にはこんなものしかなかったの…」  そう言いながら、恭安楽は当時に(ふけ)るような遠い目をした。 「あの頃の私は、父の外交のお仕事に付いて海外に行くことがよくあったから、外国のお菓子がとっても美味しく感じたものよ。でも北京にはまだ美味しい洋菓子なんて無くて…。仕方ないから自分で作るようになったの」 「だから叔母さまのお菓子は、外国仕込みで美味しいんだね」  可愛く媚びるように言って、小敏がフロランタンをペロリと頬張り、すぐに恭安楽お得意のブラウニーにも手を伸ばした。 「おかあさまのお菓子は、本当にプロのお菓子屋さんよりも美味しいですよね」  嬉しそうにそう言いながら、煜瑾も手作りのフロランタンに手を伸ばそうとして、何かに気付いた。 「!」  その表情の変化に、文維がすぐに察した。絹糸のように細い飴の束に、実は煜瑾は目が無いのだ。 「その『龍髭糖(ロンスータン)』は、煜瑾が好きなお菓子なんですよ」  文維の言葉に、煜瑾は少しはにかんで顔を赤らめて俯き、小敏と恭安楽は意外な言葉に目を丸くした。そんな遠慮がちな煜瑾に、文維が龍髭糖を取り分けて煜瑾へと手渡した。細い糸が粉まみれになったようなお菓子は、非常に食べにくいにも関わらず、なぜか煜瑾はこの上なくキレイに、品よく食べることができた。 「昔はともかく、今は『龍髭糖』は北京だけでなく、どこにでもありますからね。上海でも食べられるんです。以前に唐家のお兄様にいただいて、煜瑾が喜んでいたのを覚えています」  自分の細かい嗜好までも、ちゃんと覚えていてくれる文維の愛情に、煜瑾は嬉しくなって、ますます天使の美貌を輝かせた。 「北京のお菓子なら、まだこっちに『茯苓夾餅(ぶくりょうもち)』っていうのがあるよ。薄いパリパリのおせんべいにジャムを挟んだみたいなやつで、美味しいよ」  小敏の言葉に、煜瑾は澄んだ眼差しで茯苓夾餅を受け取った。茯苓夾餅は、北京では有名な漢方を使った健康食品とも言えるお菓子だった。煜瑾が受け取ったのは伝統的な桂花餡だったが、小敏のものは現代的にアレンジされたらしいチョコレート風味だった。 「どれも美味しくて、食べきれないほどありますね」  満ち足りた様子で煜瑾が述べると、その素直な感想に、一同はまた明るい笑いに包まれ、包家のリビングは幸福な空気だけに包まれたのだった。

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