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包家の食卓⑤

「ただいま」  玄関のドアが開き、リビングにいた一同が注目するテレビ画面で、温柔な笑みを浮かべている当人の包伯言が飄々と入って来た。 「え!お、おとうさま?今、テレビで…」  その印象的な大きな目を丸くしているのは、純粋無垢な煜瑾だけで、恭安楽、包文維、羽小敏の3人は、平然として笑っていた。 「ほら、お父さまですよ、煜瑾ちゃん」  いかにも楽しそうに、恭安楽がテレビ画面を指さした。そこには確かに今しがた玄関に現れたばかりの包伯言、その人が居た。 「え?」  あどけない表情でキョロキョロと周囲を見回す煜瑾に、文維が優しい眼差しを向け、そっと近付いた。そして、その肩を抱きよせ、耳元で囁いた。 「テレビは、午前中に録画されたものなんだよ。生放送じゃない」  文維の言葉にやっと納得した煜瑾は、自分の勘違いが恥ずかしくなったのか、照れ臭そうに笑った。 「なんだか、妙な気分だね。自分がテレビに出ているのを、こうして観るというのは」  包教授もまた面白そうに目を細め、着替えと手荷物を置きに、一度、自室としている書斎へと姿を消した。 「本当に、魔法みたいだよね。叔父さまはボクらと一緒にここにいるのに、同時にテレビの中にも存在する…なんだか変な感じ」  小敏がそう言って、煜瑾の大好きな紅焼肉を頬張るのを見て、煜瑾も慌てて料理に手を出した。 「変な感じがするのは、心理的な錯覚のせいだよ。理論的には理解していても、脳は違和感を認識し、感情が付いていかないだけだ」  専門家らしい文維の解説に、煜瑾は尊敬の眼差しで見つめた。小敏のほうは、そんなことはもう、どうでもいいとでも言うようにお箸を動かしていた。 《お噂によると、とてもお若くてお美しい奥様だそうですね》  女性司会者の言葉に、包夫人は嬉しそうに声を上げた。 「や~ん。若くて美しいですって!ご近所の奥様達もこの番組を観ているのに、恥ずかしいわ~」  少女のように頬を染めながらも、晴れやかな表情だ。 《噂はよく分かりませんが、私にとって、最高の妻だとは言えます》  夫の優しい言葉に、両頬を手で押さえ、照れ臭そうに言った。 「も~、伯言ったら~」  甘えるような妻の声に、伯言も照れたように注意した。 「落ち着いて、安楽」  照れている両親を冷静にするつもりで、文維が淡々と問いかけた。 「午前中にこの収録を終えて、今までどこに行ってらしたんですか、お父さま」 「ああ。私の後に、話題のマジシャンがインタビューを受けるというので紹介されてね。彼のショーの招待券を貰ったよ」  我に返ったように、包教授は頷きながら静かに妻の隣に腰を掛けた。 「あ~ん。もう終わりなの~?もっと、私たちのなれそめとか聞いて欲しかったわ!」 「叔母さまったら。叔父さまが公共の電波を使ってそんな話をするわけないじゃん」 「だって~」  妻である恭安楽の方は、隣の包教授本人よりも、テレビの中の方が気になるようで、インタビューの終了を名残惜しそうにしていた。呆れたような小敏の言葉にも、包夫人は拗ねたように言い返す。 「マジックショーですか。実は私たちも…」  父の言葉に返すように口を開きかけた文維だったが、次の瞬間、小敏が悲鳴のような声を上げた。

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