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Dr.Hooのサイコロジカルイリュージョン①

「うっそ~!Dr(ドクター)Hoo(フー)じゃん!叔父さま、胡双(こそう)に会ったの?」 「ああ。テレビ局の楽屋でね。とてもハンサムで、感じの良い男性だった。カナダ国籍らしいが、北京語も美しくてね」  上海出身だが、一時は北京に住んでいたこともあり、また北京育ちの恭安楽の言葉も耳に心地よい包教授は、胡双と呼ばれるカナダ人の北京語も気に入ったようだった。 「え?今、出てるこの人?ん~、確かにハンサムね」  最愛の夫の時とはまるで違う関心の薄さで、包夫人は画面を見直した。それに対して、好奇心旺盛な小敏は目を輝かせている。 「うわ!今話題の『サイコロジカルイリュージョン』のチケットじゃん!」 だが、文維は涼しい顔をして父や小敏の顔を見た。 「そのチケットなら、私も持っていますよ」 そんな文維に対して、小敏は信じられないという様子で睨みつけるように見つめた。 「え~!なんで~文維が~?なかなか手に入らなくて、転売でも、すごい値段になってるんだよ~」  不満タラタラの小敏を前に、文維は柔らかく微笑んで説明をした。 「そのショーの企画をしたプロモーターが、ショーを見て、心理学や精神医学の見地から私の意見を聞きたいと言って招待してくれたのですよ。もちろん、煜瑾と2人で行きます」  それに煜瑾が嬉しそうに付け加える。 「このショーに出資をしている煜瓔お兄さまからも、チケットがあるからとお誘いがあったのですけれど、文維と行くのでお断りしました」  小敏は、心から羨ましそうに、 「いいな~」 と、呟いた。  そんなしょんぼりした小敏に、煜瑾が何かに気付き、パッと明るい顔になった。 「だったらちょうどいいですよ、小敏。お兄さまからは、文維と行きなさいってチケットを2枚いただいたのですが、まだお返ししていないのです」 「え!じゃあ…」  見る見るうちに小敏の顔が期待のこもった笑顔になる。 「ええ、小敏にお譲りします。お兄さまにもそうお伝えして…」 「やった~!」  煜瑾の言葉に、小敏は満面の笑みでソファーからも立ち上がった。それを大げさだとでもというように、包教授も夫人も破顔する。  ふと気付いて煜瑾が訊ねた。 「小敏は、一緒に行く方は決まっていますか?」  煜瑾の質問の意図を深読みすることなく、小敏は少し考えた。 「ううん。まだだけど…。これだけ話題のショーだからね、誘えばすぐに見つかるよ」 「だったら…お願いがあるのですけれど」  すると、煜瑾は少し遠慮がちに切り出した。 「何?煜瑾のお願いなら、何でも聞いちゃうよ」  その一言にホッとした煜瑾は嬉しそうに口を開いた。 「良かったら、煜瓔お兄さまと一緒に行っていただきたいのです」  思わぬ申し出に、小敏も目を丸くする。 「煜瓔お兄さまと?でも、文維と行くようにってチケットをくださったんでしょう?ご自分は行かれないか、他の人と行く予定なんじゃないの?」  不思議そうな小敏に、煜瑾はクスリと可憐に笑った。 「ん~多分、違うと思います」  そう言って、煜瑾は少し恥ずかしそうに、そして少し誇らしげに答えた。 「お兄さまなら、もしも文維がお仕事で行けないとなった時に、私と行って下さるはずです。そのためにご予定は空けて下さっていると思います。煜瓔お兄さまなら…きっと」  兄からの愛情を微塵も疑うことを知らない煜瑾は、幸せそうに微笑んだ。それを見て、包夫妻や小敏はにこやかだった。だが、文維だけは一瞬だけ不愉快そうに眉を顰め、煜瑾に気付かれる前にすぐに穏やかな笑顔に戻った。  それが例え実兄の煜瓔であったとしても、自分以外に煜瑾に愛情を注ぐ相手には、さすがにクールな文維であっても嫉妬の感情は抑えきれないのだった。

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