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Dr.Hooのサイコロジカルイリュージョン④

 大いに盛り上がった女性司会者の番組が終わり、一同は改めて食事に戻った。 「ほら、出来立ての蟹味噌豆腐だよ」  包教授自らが運んで来たのは、教授のお得意のメニューだった。もちろん、恭安楽も、文維も、小敏も、そして煜瑾も大好物と言ってよい。 「ところで、そのショーは、いつ、どこであるの?」  濃厚で、コクがあり、まろやかな口当たりの蟹味噌豆腐を満足そうに味わい、紹興酒があればいいのに、と心の中で思いつつ、恭安楽が訊ねた。 「南京西路の、上海華茂麗都大酒店(グランド・リド・ホテル)内の劇場が改装して、新装オープンするんです。その杮落(こけらおと)し公演が、このDr.Hooの『サイコロジカルイリュージョン』ショーなんですよ」 「ああ、あの劇場やら、高級スーパーやらが入ってる大きなホテルね」  文維の説明に、包夫人も思い当たるようでフンフンと首を振った。 「あのホテルのラウンジのケーキ、美味しいんだよね」  小敏が、隣の煜瑾に確認するように言うと、煜瑾も嬉しそうに大きく頷いた。  ショッピングセンターやボーリング場、劇場などを抱える、上海随一の大規模エンタメ型高級ホテルである「上海華茂麗都大酒店」は、欧米系のゲストが多いことで知られている。彼らの期待に応えるよう、この数年来ホテル側はあちこち少しずつ改装を進めていた。  今回特に期待を集めていたのは劇場の再オープンだ。改装は、欧米人のゲストを意識して、ラスベガスのショーを再現出来るほどの規模と最新式の装置を備えた大型劇場にするものだった。 「なんでも、このDr.Hooという人は、ラスベガスでもショーをしたらしいね」  無口な教授はそれだけをポツリと言って、愛妻のために蟹味噌豆腐を取り分けた。ペロリと食べ終えていた包夫人は、足された蟹味噌豆腐に無邪気に笑った。 「ラスベガスか~。かなりの実力者ってことだね。楽しみだな~」  小敏は、待ち切れない様子でそう言った。 「中国人ではないのですか?」  世間の流行や噂に疎い煜瑾が、純真な眼差しで文維に問いかける。生真面目な煜瑾を納得させたくて、文維は依頼を受けたプロモーターから渡された資料を取りに、一度立ち上がった。 「出身は香港で、ご両親も香港人だそうです。小さい時に一家揃ってカナダに移住して、今はカナダ国籍だそうですよ」  資料を読みながら文維は煜瑾の隣に戻り、その紙束を、興味深そうな恋人に渡した。 「その後、アメリカの大学を出て…」  スラスラと資料の内容を話し始める文維に、煜瑾は目を見張る。 「文維は…もうこれだけの資料を全部暗記しているのですか!」  ざっと煜瑾が確認しただけでも、10ページは越す資料だ。もちろん、画像なども入っているが、これだけの英語のテキストを受け取って数日で、全部を頭に入れている文維の聡明さに、煜瑾はまた心を奪われてしまう。  文維は何も言わずに、うっとりしている煜瑾を優しく見つめ、言葉を続けた。 「アメリカの大学で心理学を学び、その後マジックの専門学校も卒業しているそうです」  包教授以外は、ふ~んといった顔で聞いていた。

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