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オマケ:薔薇色の寝室①

 包家での楽しいランチの後、尽きないほどのお喋りやお菓子を堪能し、夜はそのまま全員で近くの広東料理店に出かけた。この店は、近所でも海鮮料理が美味しいと評判で、地元の人間が毎日の食事に使う食堂よりは少し高級感があり、それでも庶民のお財布にも優しい「ちょうど良い」お店なのだ 「おお、包伯言!久しぶりやないけ」  上品で丁寧な対応のフロア主任が、店内に包教授の姿を認めた途端、コテコテの上海語で声を掛けた。 「相変わらずやな~」  物静かで知的な紳士である包教授が、珍しく地元の言葉で、実ににこやかな顔をして応えた。 「恭安楽も、相変わらず別嬪さんやの~」 「ありがとう。いつも優しいのね、(ひょう)さん」  馮と呼ばれたフロア主任は、急いで部下に指示を飛ばし、自らは包教授一行を2階の個室へと案内した。 「文維も大きぃなったな~」  調子のよい上海語は、不思議と高揚感を誘い、馮さんの人柄もあり、全員が笑顔で食卓を囲んだ。 「小敏も、聞いてるで、作家さんなんやって?」 「違うよ、翻訳家。日本語の児童書を中国語にしている仕事だよ」 「何や知らんけど、似たようなモンやろ」  ガハハと豪快な笑いは、この店の店員たち全員から尊敬を集めるフロア主任とは思えない俗っぽさだ。 「馮小父さんは、父の幼馴染で、私たちも子供の頃からお世話になっているのですよ」  キョトンとしている煜瑾に、文維は笑いながら説明した。 「え、お客様もご一緒でしたか。失礼いたしました」  愉快な馮小父さんは、今さら煜瑾の存在に気付いて、慌てて口調と態度を改めた。 「小敏くんのお友達ですか?」  椅子を引き、煜瑾には丁寧に接客しながら馮主任が語り掛ける。 「あ、あの…」  人見知りで、恥ずかしがり屋の煜瑾は、どう言ったものかと戸惑ってしまい、助けを求めるように文維を見た。その視線を優しく受け止め、文維が煜瑾に代わって答える。 「私の、最愛の恋人です」 「んなアホな~」  真摯な文維の言葉であるのに、馮主任は冗談だと思ったのか、盛大にツッコむと笑い飛ばした。 「馮達(ひょう・たつ)、本当なんだ。冷やかさないでやってくれないか」 「ああ?」 まだ冗談だと思っている馮主任は、呆れたような笑いを浮かべたまま、幼馴染の包伯言を振り返った。 「馮小父さん、こちらは唐家の次男の煜瑾。ボクの高校時代からの親友で、間違いなく文維の恋人だよ」 「唐家?…って、唐家ってか!」  本人はいたって真剣なのだが、「ビックリ仰天」とでも言いそうなユーモラスな様子で、馮主任は目を見張った。  煜瑾の実家である唐家は、上海で知らない者は無いと言っても良い大富豪で名家だ。  その次男と言えば、見目美しく、慈悲深い純真無垢な心を持ち、芸術の才能にも恵まれたと噂も高い。「王子」だ、「天使」だと呼ばれることを、多くの上海人が知っていた。 「あ、あの…。私、唐煜瑾と申します」  遠慮がちに煜瑾が自己紹介をすると、勇気を出した恋人を褒めるように、文維は煜瑾を抱き寄せ、いつもと変わらぬ態度で、その白い額に口付けた。

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