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第2章:交差する視線
放課後の廊下。衆哉の言葉のあと、気まずい沈黙が流れていた。
「……やめるって、何を?」
恵斗の声は、抑えた震えを含んでいた。俊介が知らない恵斗の声だ。
「この関係。俺、もう限界なんだよ」
衆哉の声は淡々としていた。怒りも悲しみも感じさせない、ただ“終わらせたい”という意思だけ。
勇気は俊介の肩をそっと叩くと、視線だけで「行ってあげなよ」と促す。でも俊介は動けなかった。動けば、自分の心のどこかが壊れてしまいそうで。
「俊介くんって、優しすぎるんだよ」
勇気がぽつりと呟いた。
「誰かに手を伸ばされるのを、ただ見てるだけ。でも、ほんとは誰よりも――」
そこまで言って、勇気は口を噤んだ。言葉にしてしまったら、もう戻れない気がしたから。
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一方で、教室の裏手。恵斗はただ俯いていた。衆哉にとっては、ただの火遊びだったのかもしれない。でも恵斗にとっては……俊介に向けきれなかった想いの逃げ場だった。
「ごめん。俺、俊介のこと、ちゃんと好きだよ。でも……俺の中のどこかが、止められなかったんだ」
衆哉は苦笑して、背を向けた。
「それを言うなら、俊介に言ってやれよ。俺じゃなくてさ」
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その夜、俊介のスマホに恵斗からのメッセージが届く。
――「少し、話せる?」
迷った末に「いいよ」と返した俊介の横で、勇気は黙って自分のノートに何かを書いていた。
俊介がちらりと覗くと、そこにはびっしりと書かれた文字。
『誰かのために我慢するのは、優しさじゃない。自分を傷つけるだけだ』
「……これ、小説?」
「うん。今、書いてるの。モデルは――言わなくても、わかるよね?」
勇気は笑った。でも、その笑顔の奥にある痛みを、俊介は見逃さなかった。
その瞬間、彼はふと気づく。もしかしたら、勇気だけが自分の“今”をちゃんと見てくれているのかもしれないと。
でも、心の奥にはまだ恵斗がいて、離れない。
この四人の心が完全に交差するには、まだ少し時間がかかりそうだった。
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