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第3章:好きなのに、壊してしまう(恵斗視点)
夜の公園。ブランコがきしむ音だけが静かに響いていた。自販機の明かりに照らされて、俊介が待っていた。
恵斗は、何度もメッセージを書いては消し、やっと「会いたい」とだけ送った。それだけで来てくれるだろうと思っていた――甘えていた。
「……寒くない?」
そう言ったのは自分なのに、寒さに震えていたのは恵斗のほうだった。
「ちょっとだけ、寒いかな。でも……会ってくれて、ありがとう」
俊介の声は、いつもの優しい声だった。でも、その奥に何があるのか、もう簡単には読めなかった。
「……俊介、ごめん」
一言目で、それしか言えなかった。言葉が詰まって、視線も合わせられない。
俊介は、少しだけ目を伏せて言った。
「何に対して?」
その言い方に、少しだけ棘を感じた。でもそれは当然だ。恵斗は俊介の信頼を裏切ったのだから。
「……衆哉のこと、知ってた?」
俊介は頷いた。
「うん。全部、じゃないけど。察してた。最近、目が合わなくなったし、よくLINEも既読のままだったし……」
そのたびに胸がきゅっと締めつけられていた俊介の姿が、頭に浮かんでしまって、恵斗は何も言えなくなった。
「俺、なんで……あんなことしたんだろう」
唇を噛む。俊介の手を取りたくなって、でもそれは許されないような気がして、拳を握りしめた。
「俊介のこと、本当に好きだったよ。今でも……好き。なのに、気づいたら衆哉に会ってた。あいつは、俊介と違って、優しくなかったから……」
「だから、惹かれたの?」
「違う。……違うと思いたい。けど、どっかで、自分を壊したかったのかもしれない。俊介が“完璧すぎて”、俺がどんどんダメになってくのが怖くて」
俊介は小さく笑った。悲しげな、でも優しい笑みだった。
「俺、完璧なんかじゃないよ。ただ、恵斗が大事だった。それだけ」
その言葉に、堪えきれず涙がこぼれた。
「まだ、やり直せるかな……?」
自分でも、どんな顔をしているのか分からなかった。でも、俊介は答えなかった。ただ、沈黙の中でそっとポケットからハンカチを差し出した。
それが、拒絶なのか、猶予なのかも分からない。
でも恵斗は、その沈黙が「終わり」じゃないことだけを祈っていた。
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