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第6章:欲しいのは、あんたの目(恵斗視点)
(なんで、あんな奴と笑ってんの)
教室の後ろの方で、俊介と衆哉がなにか話している。
俊介はいつも通り穏やかに笑って、衆哉はそれを“探るような目”で見つめている。
その光景を、恵斗はずっと見ていた。
教科書を開いたまま、ページは1ミリも進んでいない。
(俊介は俺のものだって、ずっと思ってた。……いや、そうであってほしかった)
でもあの日、あの夜、俊介は「まだ好き」だとは言ってくれなかった。
許してくれるだけで、追いかけてはくれなかった。
(俺ばっか、必死だったんじゃねぇか)
なのに、なのに――
(なんで、あいつは俊介に向かっていく? 俺といたくせに)
衆哉。いつもゲームみたいに人を弄ぶあいつが、俊介には真っ直ぐ近づいていってる。
笑いながら、無邪気な顔をしながら、それでいて鋭く“何か”を狙ってる目をしてる。
(あいつの目に、俺が映ってねぇ)
胸がざわつく。痛いほどに、焦げるみたいに。
(俊介を取られるのが怖いんじゃない。……違う。
衆哉が、俊介を見てるのが――
“俺じゃない誰か”を見てるのが、ムカつくんだ)
恵斗は立ち上がった。気づけば、教室を出ていた。
•
屋上のドアに体を預けて、深く息をつく。
(何してんだ、俺……)
指が震えてる。スマホの画面を見て、また閉じる。
俊介の名前が表示された通知。未読。返せない。
「全部俺のもんだって思ってた。俊介も、衆哉も。……俺を見てて当たり前だって」
でも、違った。
誰も、恵斗を見つめ続けてくれるわけじゃなかった。
俊介は優しいけど、俺を追いかけない。
衆哉は近くにいたけど、もう視線の先にはいない。
(こんな感情、俊介にも、衆哉にもぶつけられない)
「けど、俺……どうしようもなく、どっちも欲しいんだよ」
“選ばれたい”んじゃない。“選ばせたい”んだ。
俊介には、自分を見てほしい。
衆哉には、自分から離れないでほしい。
(ずっと俺のもんでいてよ。……誰も、渡さない)
その独占欲は、愛なんかじゃないのかもしれない。
でも、それでもいい。
自分だけを見てくれないなら――壊してでも、見せたい。
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