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第7章:やさしさの裏で、だれかが泣いてる (俊介視点)

放課後の教室。 衆哉が、ふとした拍子に俺の腕に触れた。 ほんの一瞬、躊躇があった気がする。でもすぐに、いつもの調子で笑ってごまかされた。 「なんか最近、俊介と話すと落ち着くんだよね。俺、癒されたい系男子だったっけ?」 「……知らないよ、それ」 冗談に笑い返したけど、どこか胸がざわついていた。 (衆哉、こんなに近かったっけ) • そのまま二人で昇降口に向かう途中、廊下の角で待っていたのは――恵斗だった。 「あ、ごめん。邪魔だった?」 笑ってる。でも、目が笑っていない。 俊介はすぐにそれに気づいた。 「いや、ちょうど帰るとこで――」 「ふーん、そうなんだ。……俊介、今日って図書室行く予定だったよね? 話したいこと、あるんだけど」 言葉に刺があった。 「え、そうだったの?」と、横で衆哉が笑いながら口を挟む。 その瞬間、恵斗の目がピクリと動いた。 「俊介の予定に、勝手に割り込んでたんだ。……衆哉って、マイペースだよね」 (あ、これ――わざとだ) 俊介は内心でそう思った。 恵斗は無意識じゃない。 いや、“無意識に見せかけて”刺すのがうまい。 「ごめんね、俊介。君って優しいから、断れないんだもんね。……気をつけないと、利用されちゃうよ?」 衆哉の表情が一瞬だけ強張った。 その空気に、俊介も言葉を返せなかった。 たしかに、自分は誰かに頼まれると断れない。 でも今の言葉は、“誰かを責めるため”の優しさじゃない。 「……じゃあ、あとで連絡する」 それだけ言って、俊介はその場を去った。 空気が、重たかった。息苦しかった。 • その様子を、少し離れた階段の陰から――勇気は見ていた。 (また、恵斗くん……) 指をぎゅっと握りしめる。 (俊介くんは、優しいから黙ってるだけなのに) 小さく、息を吐く。 制服のポケットから、折れたお守りを取り出す。 幼いころに俊介からもらった、“誕生日の代わり”にくれた手作りの紙製キーホルダー。 (俊介くんを守るのは、僕なんだから) 心の中で、何度も繰り返す。 (優しさを利用する人、傷つける人……全部、僕が遠ざける) 勇気の瞳は、静かに濁りはじめていた。 「――俊介くん、僕だけを見て。そうしたら、全部うまくいくんだから」 彼の声は、誰にも聞こえない場所で、どこか“お祈り”のようだった。

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