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第8章:きみのやさしさを、僕だけのものに (勇気視点)
俊介くんは昔から、誰にでも優しかった。
僕にも、恵斗くんにも、衆哉くんにも。
でもそれは、“全部に優しい”ってだけで、
僕を特別に想ってくれてるわけじゃないって、気づいてた。
(それでもいい。最初に手を伸ばしてくれたのは俊介くんだから)
“特別”になれなくても、
“最初”の思い出だけは、誰にも奪えない。
•
「俊介くん、ちょっといいかな?」
放課後、昇降口で声をかけた。
「勇気……あれ、どうしたの? 珍しいね、声かけてくるなんて」
俊介くんは、笑ってくれた。
あの笑顔。昔と変わらない、優しい目。
「うん。あのね、少し話したくて。最近、顔が疲れてるから……気になって」
俊介は、少し驚いた顔をしたあと、小さく苦笑した。
「そんなに分かる? ……なんか、いろいろあってさ」
「……恵斗くんのこと?」
声のトーンを少しだけ落とした。
俊介の目が一瞬、揺れた。やっぱり。
「……まぁ、そういうのもあるかもね」
「衆哉くんのことも?」
俊介ははっきり答えなかった。
その沈黙が、僕の中でじくじくと膨れ上がる。
――俊介くんの心が、僕以外の誰かで埋まっていくような音がした。
•
「俊介くん、僕ね、昔から……ずっと、俊介くんのこと“すごい”って思ってたんだ」
「え?」
「優しくて、正しくて。どんな時でも誰かを見捨てない。
だから、お願い。……僕のことも、見捨てないで」
ほんの少し、袖を握った。
俊介は驚いた顔をしながら、そっと笑ってくれた。
「見捨てるなんて、するわけないよ」
その瞬間、心のどこかで“確信”が生まれた。
(やっぱり、俊介くんは僕のものだ)
•
「それならさ、今日少しだけ、どこか寄り道しない? 二人で話したいこと、たくさんあるんだ」
――離したくない。
――誰にも取られたくない。
俊介くんの優しさが、“みんなのもの”になるのが嫌だ。
その笑顔は、僕だけに向けてほしい。
ずっと前から、そう願ってた。
(“ずっと一緒にいようね”って言ってくれたよね?)
•
俊介が、少し迷ったあと、ゆっくりとうなずいた。
その返事が嬉しくて、でもどこか不安だった。
だって、また誰かに取られるかもしれないから。
だから、僕はもう――
“俊介くんを守るため”なら、少しくらい嘘をつくし、誰かを傷つけても仕方ないと思ってる。
それが、愛だから。
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