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第9章:この世界で、俊介くんを守れるのは僕だけ (勇気視点)

「恵斗くんって、本当は……ずるいよね」 何気ない放課後、何気ない廊下。 すれ違ったふりをして、勇気は恵斗に声をかけた。 柔らかな声、誰が聞いても敵意なんてないような。 「……何の話?」 「俊介くんのこと。好きなくせに、浮気して。  それでいて、“自分のもの”って顔するの、変だなって思っただけ」 恵斗の顔色が変わった。 でも勇気は、あくまで無邪気な顔で続ける。 「それって、俊介くんを傷つけてるって、気づいてる?」 恵斗は一歩、近づいてきた。 表情は笑っているようで、目が笑っていない。 「お前に、何が分かる。――俊介は俺のこと、まだ――」 「“まだ好き”? ……それ、恥ずかしくない?」 勇気の声は穏やかだった。 けれどその言葉は、恵斗の心を、えぐった。 「俊介くんは、君のためにどれだけ我慢してきたんだろうね。  でももう、大丈夫。……僕がいるから」 その言葉には、一切の“怒り”も“棘”もない。 ただ、純粋で、真っ直ぐな善意だけ。 だからこそ、怖い。 恵斗が何か言おうとした瞬間、勇気はさらに一言。 「それとも――俊介くんが壊れるまで、まだ足りないの?」 • 次の日は、衆哉に向けられた。 放課後の廊下。勇気は、無邪気に声をかけた。 「衆哉くんって、面白い人だよね」 「……なんだよ、急に」 「俊介くんに“近づくの、上手だな”って思っただけ。  まるで、“誰を落とすか”ってゲームみたいに見えるから」 衆哉の顔がピクリと動く。 「……何が言いたい?」 「ただ、俊介くんって……心、脆いから。  あんまり刺激すると、壊れちゃうかもね」 「……っ」 勇気はにこっと笑った。 「僕、俊介くんが泣くとこ、見たくないんだよね。  だから、もし本気じゃないなら――近づかない方がいいと思うよ?」 笑顔のまま、静かに、確実に。 勇気は“俊介の周囲”を、切り崩しはじめていた。 • (俊介くんを守るのは、僕だけでいい) その想いはもう、“やさしさ”ではなく、“呪い”になりつつあった。

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