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第4章:全部ゲームだった――はずだった (衆哉視点)
最初は、ただの暇つぶしだった。
恵斗が俊介と付き合ってるって噂を聞いたとき、正直どうでもよかった。
(あいつみたいな“完璧”と一緒にいられる奴って、どんな顔してんだ?)
それだけが気になった。軽い興味。ほんの少しの、暇な刺激。
でも最初に会った夜、恵斗の目がやたら寂しそうだったのが、少しだけ引っかかった。
どう見ても俊介と恋愛中の奴には見えなかった。
むしろ、どこか“助けを求めてる”ような、歪んだ目をしてた。
「俊介とは、どんな感じなの?」
そう聞いたとき、恵斗は曖昧に笑った。
「優しいよ。優しすぎて、たまに苦しくなる」
その瞬間、なんか胸の奥がざらっとした。
優しすぎて苦しい? なんだそれ。
そんな感情、俺は誰にも抱いたことがない。
(……バカじゃねぇの)
そう思ったのに、気づけば恵斗を何度も誘っていた。手を繋ぎもしなかった。キスも、抱きもしなかった。ただ、たまに会って、たまに意味のない会話をしただけ。
それだけなのに、恵斗が俊介の話をするたび、イラついた。
俊介の優しさを語るたび、無性に不快だった。
(そんなに好きなら、なんで俺に会いに来るんだよ)
俺は誰にも期待してない。愛された記憶なんてない。
母親は男に依存しては捨てられ、家にいる時間より男の家にいる時間の方が長かった。
飯は冷めてたし、名前で呼ばれた記憶もない。
「お前」って呼ばれるたび、心が少しずつ削れてった。
そんな俺が、「俊介は完璧で、優しくて」なんて言葉を何度も聞かされて、平気なわけがなかった。
(壊せばいいのか、あいつの“優しさ”を)
そう思った瞬間から、俊介が気になって仕方なくなった。
最初は、嫉妬だった。
次第に、それが執着に変わった。
俊介の目に俺が映れば、恵斗よりも近くにいれば、あいつの“優しさ”が本物かどうか、暴けると思った。
(お前の優しさなんて、簡単に崩れるんじゃないのか?)
だけど――
初めて俊介と目が合った日。
ただの挨拶だけで返された日。
俺は、胸のどこかが“刺された”気がした。
(やっぱり、あいつは……ただ者じゃない)
……その日から、俺の中の“ゲーム”は終わった。
代わりに、もっと厄介で抜け出せない感情が、静かに芽を出していた。
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