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第11章:わかってたよ、俺はずっと甘えてた (恵斗視点)
俊介の前に立つと、いつも“情けない自分”が浮き彫りになる。
今だってそうだ。
自分が傷つけたくせに、
いざ俊介が誰かに取られそうになると、慌てて手を伸ばすなんて。
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「――俊介、話がある。今、いいか?」
校舎裏。もう日が暮れかけていて、空は薄く青い。
俊介は一瞬驚いたような顔をしたけど、うなずいてくれた。
「……恵斗?」
「なあ、俺さ。……ずっと、お前に甘えてたんだって、ようやく気づいた」
「……どういう意味?」
「“俊介なら許してくれる”って、どっかで思ってた。
浮気しても、不誠実なことしても、お前が離れないって信じてた」
俊介は、静かに目を伏せた。
それが、余計に怖かった。
何かを“我慢してる顔”だったから。
「俊介、お前……勇気のこと、信じてる?」
「……うん。俺、あいつのこと、嫌いじゃない。
でも……最近は、ちょっと戸惑ってるかも」
「……あいつ、“俊介を守ってる”ような顔して、支配してるだけだ」
俊介が、少し顔を上げた。
恵斗は続けた。
「俺が言える立場じゃないってわかってる。
でもさ……お前がどんどん“誰かのもの”になってくみたいで――
それが、怖いんだ」
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沈黙が流れた。
俊介は何かを言いたそうにして、でも言葉にならなかった。
「俺はお前の全部を、わかってたつもりだった。……でも違った。
本当は、わかろうともしてなかったんだと思う」
恵斗は、初めて自分の中の“弱さ”をさらけ出していた。
それでも、今さら戻れるなんて思ってない。
「それでも、お前を――“奪いたい”って思ってる自分が、いる」
その言葉に、俊介は少しだけ瞳を揺らした。
でもその直後――
「恵斗くん」
背後から、やわらかい声が割って入った。
「……話、長いみたいだけど。俊介くん、そろそろ帰る時間じゃない?」
勇気だった。
笑っている。
でもその笑顔は、まるで刃物のように冷たかった。
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俊介は、動けなかった。
挟まれている。
恵斗の“本気”と、勇気の“純粋すぎる愛情”のあいだに。
(誰かを選んだら、誰かを壊してしまうかもしれない)
そう思うほど、俊介の中で“選ぶ”ということが怖くなっていった。
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