12 / 26

第11章:わかってたよ、俺はずっと甘えてた (恵斗視点)

俊介の前に立つと、いつも“情けない自分”が浮き彫りになる。 今だってそうだ。 自分が傷つけたくせに、 いざ俊介が誰かに取られそうになると、慌てて手を伸ばすなんて。 • 「――俊介、話がある。今、いいか?」 校舎裏。もう日が暮れかけていて、空は薄く青い。 俊介は一瞬驚いたような顔をしたけど、うなずいてくれた。 「……恵斗?」 「なあ、俺さ。……ずっと、お前に甘えてたんだって、ようやく気づいた」 「……どういう意味?」 「“俊介なら許してくれる”って、どっかで思ってた。  浮気しても、不誠実なことしても、お前が離れないって信じてた」 俊介は、静かに目を伏せた。 それが、余計に怖かった。 何かを“我慢してる顔”だったから。 「俊介、お前……勇気のこと、信じてる?」 「……うん。俺、あいつのこと、嫌いじゃない。  でも……最近は、ちょっと戸惑ってるかも」 「……あいつ、“俊介を守ってる”ような顔して、支配してるだけだ」 俊介が、少し顔を上げた。 恵斗は続けた。 「俺が言える立場じゃないってわかってる。  でもさ……お前がどんどん“誰かのもの”になってくみたいで――  それが、怖いんだ」 • 沈黙が流れた。 俊介は何かを言いたそうにして、でも言葉にならなかった。 「俺はお前の全部を、わかってたつもりだった。……でも違った。  本当は、わかろうともしてなかったんだと思う」 恵斗は、初めて自分の中の“弱さ”をさらけ出していた。 それでも、今さら戻れるなんて思ってない。 「それでも、お前を――“奪いたい”って思ってる自分が、いる」 その言葉に、俊介は少しだけ瞳を揺らした。 でもその直後―― 「恵斗くん」 背後から、やわらかい声が割って入った。 「……話、長いみたいだけど。俊介くん、そろそろ帰る時間じゃない?」 勇気だった。 笑っている。 でもその笑顔は、まるで刃物のように冷たかった。 • 俊介は、動けなかった。 挟まれている。 恵斗の“本気”と、勇気の“純粋すぎる愛情”のあいだに。 (誰かを選んだら、誰かを壊してしまうかもしれない) そう思うほど、俊介の中で“選ぶ”ということが怖くなっていった。

ともだちにシェアしよう!