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第12章:僕の知ってる勇気は、そんな人じゃない (俊介視点)

恵斗と衆哉、二人から立て続けに言われた言葉。 「勇気は、お前を“囲い込もうとしてる”」 「優しい顔をして、裏で俺たちを追い払ってる」 どちらも、信じたくなかった。 でも、二人がウソをついてるとも思えない。 だから―― 心が、ぐらついていた。 • そんな時だった。 図書室で、一人きりになった俊介の前に、勇気がやってきた。 「俊介くん、さっきの恵斗くんとの話……聞いちゃって、ごめんね」 「えっ……」 「偶然、通りかかっただけ。盗み聞きするつもりじゃなかったよ」 勇気は、微笑んでいた。 申し訳なさそうな、でも変わらず穏やかな笑顔で。 「でも……僕、ちょっとだけ寂しかった。  俊介くんが他の誰かに、自分の弱さを話してるの見て――“ずるいな”って思っちゃった」 俊介は、胸の奥がチクリと痛んだ。 「でもね、それでも……怒ったりしないよ。俊介くんが大事だから」 • (こんなにも優しくて、あたたかい言葉をくれる人が、  本当に“誰かを追い詰めてる”なんて、信じられる?) だけど。 俊介がふと視線を逸らした先、 勇気の手が、図書室の机の下でぎゅっと拳を握っていたのを見逃さなかった。 ……それが、何を意味するのか。俊介には、まだわからなかった。 • その日の放課後。 勇気は、衆哉にだけ“声をかけた”。 「衆哉くん、ちょっとだけいい?」 「……なんだよ、今さら」 「恵斗くんのことも、俊介くんのことも……全部、見てたよ」 「……は?」 「やっぱり君は“自分がいちばん正しい”と思ってる。  でもね、俊介くんはそんな簡単じゃない。  誰かが正しくても、誰かが優しくても、  彼は“傷ついた誰か”に手を伸ばしちゃう人だから」 衆哉が言葉を失う。 勇気は、変わらず笑っている。 「だからね、衆哉くん。  もし俊介くんに近づいて、また傷つけるようなことしたら――  今度は僕が、君を傷つけるよ」 優しい声。丁寧な敬語。 けれどその瞳は、まるで氷のようだった。 • (俊介視点) その夜、俊介はベッドの中で目を閉じても眠れなかった。 恵斗は、“過去の自分”と向き合おうとしていた。 衆哉は、“誰よりまっすぐに”俊介のことを考えてくれていた。 そして勇気は――“ずっと自分を想ってくれていた、たった一人”の存在だった。 (誰かを選ぶなんて、できない……) みんな好きだ。 それぞれに惹かれて、心がちぎれそうなくらい揺れている。 でも、選ばなきゃいけない日が来るのかもしれない。 俊介は、そんな未来が――怖かった

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