14 / 26
第13章:僕は、誰のことも選べないくせに (俊介視点)
誰かの手を取るたびに、
他の誰かの表情が胸に突き刺さる。
恵斗の不器用な愛情。
衆哉の真っ直ぐすぎる言葉。
勇気の静かな優しさ――その裏にある、狂おしいまでの執着。
全部、本物だと思う。
全部、僕のためだった。
……なのに、僕は。
(どうして、“どれかひとつ”を選べないんだろう)
選ばなきゃいけないって、分かってる。
でも、誰かを選ぶってことは、誰かを切り捨てるってことで――
それが、どうしようもなく怖い。
•
放課後の教室で、一人きりになったとき。
何かがぷつんと切れた。
(もう、疲れた……)
僕はただ、誰かに愛されたかっただけ。
誰かの特別になりたかっただけ。
でも、今の僕は“誰のものでもないくせに、誰の気持ちにも応えようとしてる”。
――最悪だ。
•
その日の夜。
ベッドの中でスマホを握ったまま、ふと画面に並ぶ三人の名前を見る。
恵斗。衆哉。勇気。
どの名前にも、指を伸ばせなかった。
送れる言葉がなかった。
何を言っても、偽善にしか思えなかった。
(僕は……誰かに愛される資格なんて、あるのかな)
選べない自分が、だんだん“嫌い”になっていく。
誰かに嫌われるより、
“自分で自分を軽蔑すること”の方が、ずっと苦しいと知った。
•
その時、画面が震えた。
【勇気】「俊介くん、今日大丈夫だった?また誰かに何か言われたりしてない?」
やさしい文面。
でもその“気づきすぎる”優しさが、今は少しだけ怖かった。
“気づかれたら、また誰かを傷つけてしまう気がして”
既読をつけたまま、返信はできなかった。
•
次の日、俊介は鏡の前で呟いた。
「――誰かを選ぶって、なんでこんなに、苦しいんだろう」
返事は、当然、返ってこない。
だけどその言葉に、かすかに涙の味が混じっていた。
ともだちにシェアしよう!

