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第13章:僕は、誰のことも選べないくせに (俊介視点)

誰かの手を取るたびに、 他の誰かの表情が胸に突き刺さる。 恵斗の不器用な愛情。 衆哉の真っ直ぐすぎる言葉。 勇気の静かな優しさ――その裏にある、狂おしいまでの執着。 全部、本物だと思う。 全部、僕のためだった。 ……なのに、僕は。 (どうして、“どれかひとつ”を選べないんだろう) 選ばなきゃいけないって、分かってる。 でも、誰かを選ぶってことは、誰かを切り捨てるってことで―― それが、どうしようもなく怖い。 • 放課後の教室で、一人きりになったとき。 何かがぷつんと切れた。 (もう、疲れた……) 僕はただ、誰かに愛されたかっただけ。 誰かの特別になりたかっただけ。 でも、今の僕は“誰のものでもないくせに、誰の気持ちにも応えようとしてる”。 ――最悪だ。 • その日の夜。 ベッドの中でスマホを握ったまま、ふと画面に並ぶ三人の名前を見る。 恵斗。衆哉。勇気。 どの名前にも、指を伸ばせなかった。 送れる言葉がなかった。 何を言っても、偽善にしか思えなかった。 (僕は……誰かに愛される資格なんて、あるのかな) 選べない自分が、だんだん“嫌い”になっていく。 誰かに嫌われるより、 “自分で自分を軽蔑すること”の方が、ずっと苦しいと知った。 • その時、画面が震えた。 【勇気】「俊介くん、今日大丈夫だった?また誰かに何か言われたりしてない?」 やさしい文面。 でもその“気づきすぎる”優しさが、今は少しだけ怖かった。 “気づかれたら、また誰かを傷つけてしまう気がして” 既読をつけたまま、返信はできなかった。 • 次の日、俊介は鏡の前で呟いた。 「――誰かを選ぶって、なんでこんなに、苦しいんだろう」 返事は、当然、返ってこない。 だけどその言葉に、かすかに涙の味が混じっていた。

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