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第15章:もう、誰も近づかないで――

(俊介視点) 教室の隅、保健室のベッドの上、帰り道のバスの中。 どこにいても、誰かの視線を感じた。 (怖い……) “好きだ” “俺を見てくれ” “俺だけを信じてくれ” その言葉たちは、まるで呪いのようだった。 最初は嬉しかった。 でも今は――もう、耐えられない。 • 「ごめん……少し、距離を置かせてほしい」 その一言を送信するのに、30分以上かかった。 返信はすぐに来た。 だけどそれは、まるで“壊れた想いの開封音”だった。 • ◆【恵斗】 「……なんで? なんで急に?」 「俊介……俺のこと、もういらないの?」 いつもなら強がって見せる恵斗が、まるで泣きそうな声を送ってきた。 「俺、ちゃんと本気だったんだよ。  でも……やっぱり衆哉のこと、少しでも気になってたの、バレた?」 • ◆【勇気】 「俊介くん……どうして?  僕、俊介くんのこと、誰よりもわかってるよ」 文面は丁寧なまま。 でもその直後、10件以上の未読メッセージが連続で届いた。 「僕、俊介くんのこと守るためなら、何でもするって言ったよね」 「お母さんも、昔そうやって僕のこと守ってくれた」 「だから俊介くんは僕の“大事な人”なんだ。離れちゃダメなんだよ」 (……勇気、“お母さん”って……) ふと背筋が凍る。 勇気は僕に、母親の面影を重ねていたのかもしれない。 • ◆【衆哉】 「やっと本気でお前が欲しいと思ったのに。  今さら距離置くとか……ふざけんなよ」 「……俺、恵斗に嫉妬してた。  だから、あんなことした。あいつを奪って、お前の気を引きたかった。  でも、違うんだよ……  俺が欲しいのは、恵斗じゃなくて――お前だ」 ……でもそのメッセージの後に、さらに一言。 「だけど、なんでだろ。  今もどこかで、あいつのこと……少しだけ気になる」 (なんで、そんなこと、言うの……) • スマホを投げ出した。 頭が割れそうに痛い。 胸が苦しい。呼吸が浅い。 「もう……無理だよ」 僕が誰かの全部になれるわけがない。 誰かの“救い”にも、“癒し”にもなれない。 それなのに、3人とも、僕にすがってくる。 “壊れてるのは、きっと――僕なんだ” • (恵斗視点) 俊介が距離を置くなんて、思ってもみなかった。 自分は“誰よりも一番近くにいる”と思ってたから。 だけど、衆哉の顔がチラつく。 あの夜のこと。 俊介と付き合っていたのに、どうしようもなく衆哉に引かれた。 (俊介を好きな気持ちは本物なのに……どうして) 心が、ゆっくりと軋んでいく。 • (勇気視点) 「……俊介くん、僕だけ見ててよ」 優しく囁いた声は、夜の部屋に響いていた。 携帯を握りしめながら、母親の古い写真を見つめる。 「お母さんも、僕を独り占めしてくれたのに。  俊介くんも、僕の全部になってくれなきゃ、だめなんだよ」 その声のトーンは、どこか壊れかけていた。 • (衆哉視点) 「逃げるなよ、俊介……」 呟いた声の奥にあるのは、欲望と焦燥。 本気で欲しいと思った相手を、簡単に手放す気はない。 でも―― (……恵斗、あいつのこと、なんでまだ気になるんだよ) 俊介と向き合いたいのに、 心のどこかが、恵斗の存在に引っ張られていた。 • そして俊介は―― まだ知らなかった。 この愛の重さが、これから本当の意味で“歪み”へと変わっていくことを。

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