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第16章:僕は、僕でいていいの? (俊介視点)
(僕は――本当に、誰かに愛されてるのかな)
心の中に、ぽっかり空いた穴。
3人に囲まれているのに、どんどん孤独になっていく。
「好き」って言葉が、
「誰のものにもならないで」っていう呪いみたいに聞こえる。
“僕のことを好きだ”と言ってくれる彼らが見ているのは、
――本当の僕なんだろうか?
•
その日、教室の空気が変わった。
「俊介は俺のだ」
衆哉が、怒気を孕んだ声で言った。
「何言ってんだよ。俊介は俺と付き合ってたんだ」
恵斗が睨み返す。
「過去形にすんな。まだ俊介は……お前のものでも、俺のものでもない」
衆哉の拳が、机を叩いた。
「じゃあ今の俊介を見て言えよ! お前、俊介の何をわかってんだよ!」
教室に張りつめた空気。
周囲の生徒たちは息を呑んだまま、言葉を発せず――
そのとき、
教室の扉がゆっくりと開いた。
•
「やめてください」
静かで、けれど確実に冷たい声。
勇気だった。
彼は一歩ずつ、俊介の隣に寄ってきて――優しく手を伸ばした。
「俊介くんは、僕が一番理解してます。
誰も彼を苦しめる権利なんてないんです」
その言葉に、恵斗も衆哉も動けなくなった。
「……あなたたちが欲しいのは、俊介くんじゃなくて、“俊介くんを持ってる自分”でしょう?」
笑顔なのに、目だけが笑ってなかった。
俊介の手を取ったまま、勇気が囁いた。
「俊介くんは、僕が守ります。お母さんと同じように」
(――お母さん?)
ぞわっと、背中に悪寒が走る。
「僕のことだけを見てくれれば、それでいいんです」
「他の人に何も言わなくていい。僕とだけ、いればいい」
勇気の手の温度が、急に冷たく感じた。
(違う。これじゃない……)
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(俊介視点・心の声)
恵斗と衆哉は僕を取り合ってる。
勇気は僕を閉じ込めようとしてる。
でも、誰も――
“今の僕”を見てくれてない。
弱くて、臆病で、誰かの期待に応えられない僕を。
(こんなの、僕じゃない)
(僕は、ただ……“好きになってほしい”だけだったのに)
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その夜。
俊介は初めて、自分の心に問いかけた。
「……本当の僕って、誰なんだろう」
その問いに答える声は、まだ、どこからも返ってこなかった。
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