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第17章:ここから、僕を助けて (俊介視点)
勇気の家。
夕暮れの中、僕は“優しさ”という名の檻に閉じ込められていた。
「俊介くん、今日はここで一緒にいよう? ずっといてくれたら、もう何もしなくていいから」
そう言って笑う勇気は、穏やかで、でも――怖かった。
僕が帰ろうとすると、さりげなく腕を掴んで引きとめてくる。
ドアの鍵が、いつのまにか内側から閉められていた。
(ああ……これって)
優しさじゃない。これは、支配だ。
「俊介くんは、僕が一番理解してるんだから」
「外の人は、みんな君を傷つけるでしょ?」
「君には僕だけがいればいい。お母さんが僕を守ってくれたように、僕も君を守る」
言葉は甘くて柔らかいのに、
その中にあるのは、狂気だった。
•
スマホには、恵斗と衆哉から何十件もの通知。
「迎えに行く」「心配してる」「どこにいるんだ」
でも、もう見たくなかった。
恵斗も衆哉も、僕の中の“誰か”を求めてるだけ。
弱い僕を、大切にしてくれるわけじゃない。
•
僕は静かに、勇気を見た。
そして、そっと呟いた。
「ごめん……誰も、選べない」
「え……?」
「誰かを選ぶってことは、誰かを捨てるってことでしょ。
……僕には、それができないんだ。
だって――僕が、僕を捨てたくないから」
勇気の表情が歪んだ。
瞳が細かく揺れ、口元が引きつる。
「……なんで? 僕のこと、いらないの?」
「俊介くん……裏切るの?」
「違うよ。僕は、誰も裏切りたくない。
でも、もう……誰にも縛られたくないんだ」
そう言って、僕は勇気の手をそっと振りほどいた。
•
その日のうちに、僕はすべての連絡手段を断った。
スマホの電源も切って、学校も休んだ。
誰にも会わず、ひとりで考えた。
(僕は、僕でいていいのかな……)
もう、誰かにとって“理想の俊介”じゃなくて、
ただの僕を、好きになってくれる人に――いつか、出会えるのかな。
今はまだ、答えは出ない。
でも、やっと“自分の足で立つこと”を選べた気がした。
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