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第18章:君がいない、ただそれだけで

(勇気視点) 俊介くんがいなくなって、もう一週間。 LINEは既読にならない。 電話も出ない。 家にもいない。学校にも来てない。 「……なんで?」 あれだけ優しくしたのに。 あれだけ守るって言ったのに。 (僕の“優しさ”じゃ足りなかったの?) • 夜、部屋で母親の写真を見つめる。 「お母さんは、僕の全てを包み込んでくれたよね……」 「でも俊介くんは、逃げたんだ。僕の愛を、拒んだんだ……」 震える手で、スマホを握りしめる。 壊れるほどにメッセージを打っては、消して。 既読すらつかない画面に涙がにじむ。 「……許さない」 「僕の愛を捨てたら、俊介くんはどうなっちゃうのか、分からせてあげなきゃ」 その声は静かだった。 まるで優しい子守唄のように、狂気が優しさに溶けていた。 • (恵斗視点) 俊介が消えて、ふと思い出す。 中学時代。 誰にも本音を言えなくて、強がってばかりだった自分に、俊介だけが笑いかけてくれた。 「無理しなくていいよ」 あの言葉が、どれだけ救いだったか。 (なのに俺は、衆哉と……) 罪悪感が胸を裂く。 自分の中にあった“独占欲”が、俊介を壊していたことに、今さら気づく。 「本気だったんだ。俊介のこと、好きだったんだよ」 声に出すと、涙が止まらなくなった。 (もし、もう一度会えたら、ちゃんと謝れるだろうか) • (衆哉視点) 最初はゲームだった。 恵斗が好きそうな俊介を奪えば、気が引けると思った。 でも、俊介と過ごすうちに、違った。 ――本気で欲しい、と思った。 だけど同時に、 俊介が恵斗を見ている時の顔が、脳裏に焼き付いていた。 (あんな顔、俺には向けてくれない) それが悔しくて、 でももう、俊介はいない。 「お前は、俺を選ばないまま……いなくなったのかよ」 手の中で、小さな紙切れが揺れた。 それは、俊介が最後に残していた「ごめん」のメモ。 (……逃げたんじゃない。きっと、壊れそうだったんだ) • (俊介視点) どこにいても、3人の顔が浮かぶ。 優しかった勇気。 少し不器用で、でも真っ直ぐだった恵斗。 ぶっきらぼうで、でも嘘のない目をしてた衆哉。 みんなが、僕を“自分の理想”で見てくれていた。 でも、誰も――僕自身を、見てはいなかった。 ……そう思ってた。 (けど、もしかしたら……僕も、そうだったのかもしれない) “本当の自分を見せるのが怖くて、  誰かの理想になろうとしてたのは――僕の方だったのかも” • 僕は、ちゃんと向き合わなきゃいけない。 過去とも、あの3人とも、そして――自分自身とも。 でも今は、もう少しだけ。 ひとりで、“自分”を探していたい。 • そのころ、勇気は静かに立ち上がった。 彼の手には、写真立て。 俊介と写る笑顔のツーショット。 それを優しく撫でながら、囁いた。 「待っててね、俊介くん。僕、ちゃんと“迎えに行く”から」 その微笑みは、 愛か、執着か――誰にも、まだ分からなかった。

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