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第19章:選ばれなかった者たちの選択
(勇気視点)
「ねえ、俊介くん――どうして、いないの?」
スマホの画面を撫でる。
連絡は返ってこない。通話も、着信拒否に変わっていた。
優しくしていたはずだ。
守ってきた。全部、俊介くんのためだった。
それなのに。
(……なんで逃げるの?)
部屋の中、俊介との写真が飾られた壁に向かって、勇気は囁いた。
「ほかの人に取られるくらいなら、いっそ――」
手の中で小さく震えるGPSアプリのアイコン。
以前、俊介のスマホにこっそり入れたものだ。
「……もう、君を誰にも渡さない」
その声は、完全に微笑の中に狂気を溶かしていた。
•
(恵斗視点)
俊介が消えて、心に穴が開いたようだった。
(俺は――何をしてたんだ?)
誰よりも近くにいたのに、
浮気をした。疑った。傷つけた。
「最低だよ、俺……俊介を愛してたのに」
部屋の机の引き出しにしまった、俊介との手紙の束。
泣きながら読んで、ぐしゃぐしゃに握り潰して。
けれど、手紙の最後の一行だけは、なぜか焼きついていた。
《恵斗が笑っててくれたら、それだけで僕は、幸せだよ》
……そんな風に言ってくれる人に、何をしてきたんだろう。
•
(衆哉視点)
俊介を奪えば、恵斗を困らせられると思ってた。
けど、いつの間にか――
俊介を「ただの道具」じゃなくて、ちゃんと“ひとりの人間”として見ていた。
「アイツのこと……欲しかったんだ」
気づいたときには、もう遅かった。
(あのとき、本音を言えてたら……)
悔やんでも戻らない。
だから、今からでも“取り戻したい”と思った。
•
(俊介視点)
ひとりで海辺の街にいた。
家にも学校にも戻ってない。
潮風と、誰も自分を知らない街の空気だけが、やさしかった。
「……僕は、僕でいていいの?」
問いに答える声はない。
でも、誰かに愛されることより、
“自分を自分で抱きしめること”が、今は何より必要だった。
(だけど……また、戻らなきゃいけない日が来るんだろうな)
そう思ったときだった。
•
ある夜。
俊介の泊まる簡易宿のドアがノックされた。
「俊介くん……会いに来たよ」
――勇気だった。
優しく笑っている。けれど、その瞳は沈んでいた。
「君を守るために、ここまで来たんだ」
「誰にも邪魔されない場所で、一緒にいよう?」
その声に、俊介は微かに震えた。
「……どうやって、僕の場所を……」
「俊介くんのために、ずっと見てたよ」
•
同時刻。
街の駅に、恵斗と衆哉が降り立つ。
「……あのGPS、勇気が使うかもって思って、俺も追跡かけといた」
「マジで来てる……俊介がここにいる」
二人は目を見合わせ、そして走り出す。
•
――再び、全員がひとつの場所へ。
今度は、俊介を取り合うためじゃない。
それぞれが“自分の過ち”を背負って、
俊介と、そして自分自身と向き合うために。
そして――勇気は、静かに言った。
「俊介くんは、僕の世界のすべてだから」
「……いらないなら、君を“閉じ込める”しかないんだ」
•
すべての想いが、ぶつかる瞬間が、近づいていた。
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