22 / 26
最終章:優しさのかたち
(勇気視点)
「俊介くん……ごめんね」
柔らかい白い天井。点滴の管。
ここは、病院のベッドの上。
すべてが壊れてから、何日が経ったのか。
覚えていない。ただ、あの日の俊介の言葉だけが、何度も脳裏でリフレインする。
――「僕は、誰の代わりにもならない」
あの一言で、全てが終わった。
でも、壊れた自分を見捨てなかった人がいた。
「……まだ、間に合うと思ってるから」
病室のドアの前、恵斗が言った。
「俊介のこと、本気で大切に思ったなら――お前も、自分を大切にしろ」
その隣には、無言で立つ衆哉の姿。
(どうして、まだ俺なんかに……)
勇気は、声にならない涙を流す。
•
(恵斗視点)
勇気を病院へ連れていく途中、衆哉がぽつりと呟いた。
「……俺ら、誰かを助けたの、初めてかもな」
恵斗は、苦笑して頷いた。
「俺たち、いつも誰かに依存して、傷つけて、奪うばかりだったな」
「俊介に、全部背負わせてたのに……最後の最後まで、あいつは“逃げない”って、俺たちから逃げなかった」
それがどれほど残酷だったか、今なら分かる。
そして今、彼は不在のまま――けれど、確かに胸に残っていた。
•
(衆哉視点)
学校のカウンセリング室にいた。
勇気のために、衝動的に話を聞く側にまわろうと、手続きを取った。
「いつか、俺も“誰かの心”を守れるようになりたい」
かつて俊介を試すように弄んだ手で、今は誰かの傷を撫でてやれるように。
恵斗も教師を目指すと言った。
それぞれが、今度こそ“守る側”に立とうとしていた。
「俊介がくれた、最初で最後のチャンスなんだよな……」
•
(俊介視点)
海辺の街を離れて、都会に戻っていた。
でも、誰にも会っていない。
ただ静かに、自分の好きなものや、本当にしたかったことに触れていた。
夜、届いたメッセージがあった。
《勇気、入院したよ。今、治療に向き合ってる》
《俺たちも、それぞれ進み始めた》
《ありがとう。あのとき、言ってくれた言葉、ずっと忘れない》
俊介はスマホを伏せて、夜空を見上げた。
(……こちらこそ)
心の中でつぶやいたその言葉が、どこかへ届く気がした。
•
街中、すれ違う3人。
ふと立ち止まり、振り返るが、それぞれに進む方向が違う。
もう、同じ道ではない。
けれど、確かに“同じ時間”を過ごした。
――誰かを愛した記憶。
――誰かに依存した罪。
――誰かを許した優しさ。
すべてが今の彼らを作っている。
俊介のいない世界で、それでも彼を思いながら、3人はそれぞれの未来を歩き始めた。
ともだちにシェアしよう!

