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最終章:優しさのかたち

(勇気視点) 「俊介くん……ごめんね」 柔らかい白い天井。点滴の管。 ここは、病院のベッドの上。 すべてが壊れてから、何日が経ったのか。 覚えていない。ただ、あの日の俊介の言葉だけが、何度も脳裏でリフレインする。 ――「僕は、誰の代わりにもならない」 あの一言で、全てが終わった。 でも、壊れた自分を見捨てなかった人がいた。 「……まだ、間に合うと思ってるから」 病室のドアの前、恵斗が言った。 「俊介のこと、本気で大切に思ったなら――お前も、自分を大切にしろ」 その隣には、無言で立つ衆哉の姿。 (どうして、まだ俺なんかに……) 勇気は、声にならない涙を流す。 • (恵斗視点) 勇気を病院へ連れていく途中、衆哉がぽつりと呟いた。 「……俺ら、誰かを助けたの、初めてかもな」 恵斗は、苦笑して頷いた。 「俺たち、いつも誰かに依存して、傷つけて、奪うばかりだったな」 「俊介に、全部背負わせてたのに……最後の最後まで、あいつは“逃げない”って、俺たちから逃げなかった」 それがどれほど残酷だったか、今なら分かる。 そして今、彼は不在のまま――けれど、確かに胸に残っていた。 • (衆哉視点) 学校のカウンセリング室にいた。 勇気のために、衝動的に話を聞く側にまわろうと、手続きを取った。 「いつか、俺も“誰かの心”を守れるようになりたい」 かつて俊介を試すように弄んだ手で、今は誰かの傷を撫でてやれるように。 恵斗も教師を目指すと言った。 それぞれが、今度こそ“守る側”に立とうとしていた。 「俊介がくれた、最初で最後のチャンスなんだよな……」 • (俊介視点) 海辺の街を離れて、都会に戻っていた。 でも、誰にも会っていない。 ただ静かに、自分の好きなものや、本当にしたかったことに触れていた。 夜、届いたメッセージがあった。 《勇気、入院したよ。今、治療に向き合ってる》 《俺たちも、それぞれ進み始めた》 《ありがとう。あのとき、言ってくれた言葉、ずっと忘れない》 俊介はスマホを伏せて、夜空を見上げた。 (……こちらこそ) 心の中でつぶやいたその言葉が、どこかへ届く気がした。 • 街中、すれ違う3人。 ふと立ち止まり、振り返るが、それぞれに進む方向が違う。 もう、同じ道ではない。 けれど、確かに“同じ時間”を過ごした。 ――誰かを愛した記憶。 ――誰かに依存した罪。 ――誰かを許した優しさ。 すべてが今の彼らを作っている。 俊介のいない世界で、それでも彼を思いながら、3人はそれぞれの未来を歩き始めた。

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