23 / 26
番外編①:恵斗 ―教師になる日まで―
「……はい、そこ! 静かに! 先生、怒らないけど泣くぞ?」
教室に笑いが広がる。
高校の教育実習で、生徒たちと過ごす日々は、予想以上に忙しくて、あたたかかった。
休み時間、職員室の端で恵斗は手帳を開いた。
そこには、俊介との思い出の断片や、彼に言われた言葉が書き残されている。
《君は、自分で思ってるより優しい人だよ》
(……今でも、そう言ってもらえるだろうか)
かつては欲に任せて浮気をした。
それでも俊介を愛していたことは、嘘じゃない。
だから、次は「誰かの心を守れる人間」になりたいと本気で思った。
ふと、LINEに通知が届く。
《勇気、今日面会行ってきた。だいぶ落ち着いてきたよ》
それは衆哉からだった。
《そっちの教育実習、頑張ってんなら今度見に行ってやるよ、先生》
恵斗は小さく笑って、「来たらマジで授業受けさせる」とだけ返信する。
彼はまだ、俊介を忘れていない。
けれど、その痛みを“誰かを救う強さ”に変えようとしていた。
(今度こそ――俺は、誰かの手を、離さない)
そう心に決めて、教室に戻っていった。
ともだちにシェアしよう!

