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番外編①:恵斗 ―教師になる日まで―

「……はい、そこ! 静かに! 先生、怒らないけど泣くぞ?」 教室に笑いが広がる。 高校の教育実習で、生徒たちと過ごす日々は、予想以上に忙しくて、あたたかかった。 休み時間、職員室の端で恵斗は手帳を開いた。 そこには、俊介との思い出の断片や、彼に言われた言葉が書き残されている。 《君は、自分で思ってるより優しい人だよ》 (……今でも、そう言ってもらえるだろうか) かつては欲に任せて浮気をした。 それでも俊介を愛していたことは、嘘じゃない。 だから、次は「誰かの心を守れる人間」になりたいと本気で思った。 ふと、LINEに通知が届く。 《勇気、今日面会行ってきた。だいぶ落ち着いてきたよ》 それは衆哉からだった。 《そっちの教育実習、頑張ってんなら今度見に行ってやるよ、先生》 恵斗は小さく笑って、「来たらマジで授業受けさせる」とだけ返信する。 彼はまだ、俊介を忘れていない。 けれど、その痛みを“誰かを救う強さ”に変えようとしていた。 (今度こそ――俺は、誰かの手を、離さない) そう心に決めて、教室に戻っていった。

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