24 / 26

番外編②:衆哉 ―声を聴く側へ―

高校の旧倉庫を改装したカウンセリングルーム。 放課後の静かな時間、衆哉は椅子に深く腰掛けて、目の前の生徒の話を黙って聞いていた。 「……だから、親に言えないままになってて……」 うつむいた男子生徒の声は小さく、震えていた。 衆哉は頷きながら、そっとマグカップを差し出す。 「言葉って、急がなくていい。言えなかったことが、君の全部じゃない」 (あの頃の俺に、誰かがそう言ってくれてたら――) 俊介を試すように愛を口にして、壊しそうになった自分。 そんな自分に、俊介は一度も怒鳴らなかった。 その意味を、今なら理解できる。 「俊介、あのとき……お前は俺の心を見てくれてたんだよな」 そんな風に、他人の“痛み”に触れられる人間に、やっとなれた気がする。 • 放課後、生徒たちが帰った後。 窓辺で、ふとスマホを開くと、勇気からのメッセージが届いていた。 《ありがとう。お前が病室にいたこと、ちゃんと覚えてる。次に会うときは……もうちょっとマシな顔、見せる》 衆哉は画面を閉じて、空を見上げた。 俊介の姿はそこにはないけれど、彼が“背中を押してくれた”ことだけは確かだった。 (今度は俺が、誰かの声を受け止める番だ) かつて誰も信じられなかった少年は、 今、誰かの心に寄り添う青年になろうとしていた。

ともだちにシェアしよう!