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(続)第19.5話 相互通行 ※

「レイ……すごくいい顔をしている」 「……そうかよ」 諦めたようにレイは呟いた。そんな反応すら面白そうにするクラウスを睨みつけるが、どうやら逆効果だったらしい。クラウスが落ちていたバスローブをレイにかけてから横抱きにして持ち上げる。なされるがままレイは客室へ運ばれた。魔法で客室の扉がぱっと開かれ、中に入ると閉められる。ベッドにそっと降ろされると、クラウスはレイの上に跨りながら、仕切り直すかのようにまたレイにキスをし始めた。 「キス……好き?」 あまり働かない頭でそんなことを聞くと、クラウスはただ微笑んだ。 「レイとするキスは、至福だな。レイは?」 聞き返されると思っておらず、レイは「んー」と考えながらクラウスの頬に手を伸ばす。クラウスとの距離を詰めるようにゆっくり起き上がって、クラウスの唇に自身の唇を重ねた。柔らかな唇の感触を堪能して放すと、クラウスの藍色の瞳が嬉しそうにレイを見た。 「割と……好きかも、しれない」 そう答えると、クラウスはまた短く息を吐き出すように軽く笑った。そこからはもう、怒涛のキスの嵐だった。唇から始まり、顎、うなじ、肩、指先、背中、腰、爪先に至るまで、余すところなく全身に降り注ぐ。軽率にあんなこと言うんじゃなかったとレイは後悔した。息が上がる。どこを触られてても反応してしまうぐらい、体の感度が上がって鈍く芯が疼く。先ほど吐き出したはずの熱が、また頭を擡げ始めていた。 「レイ」 呼ばれて、レイはとろりと目を開けた。クラウスが空中に魔力で文字を書いている。それは魔法の構成式だった。頭の中で自然とその構成式を思い描いて、レイの意識は覚醒した。簡単な洗浄魔法を基礎として、粘膜保護とその柔軟性を高めるような構成式だった。どこにそれを施すのかなんて、言わずもがなである。 「できるか?」 クラウスが意地悪く聞いてくる。できる。できるが、これは自分でしなければならないだろうか。レイが目で訴えると、クラウスはレイの手をとって指に口付けた。 「私を受け入れるために、君が準備することに意味がある」 レイは目を覆った。指先からクラウスの魔力が期待を込めてまとわりついてくる。また目を開けると、クラウスは先ほどと同じように微笑んでいた。レイは羞恥に顔を歪めながら、魔力を練った。素直に言うことを聞く自分の魔力に若干苛立ちながら、自身の腹に魔法を行使した。腹の中がもぞもぞとして、変な感覚がする。レイは思わず声を上げた。 「こん、なの、医療魔法に片足つっこんでるじゃないか!」 「民間で使われている魔法なんてそんなものさ」 そう言いながら、クラウスの手がレイの腰に伸びる。つぷりと異物が入ってくる感覚がして、レイは身震いした。 「――うん、できている。……本当に初めての行使か?」 クラウスに言われて、レイは思わず視線を逸らした。その行動にクラウスの指がぐっと無遠慮に入ってきて、レイは小さく呻いた。長い指がレイの中を掻きまわして、答えるように促してくる。レイは眉根を寄せながら、苦し気に答えた。 「っ! ここ、までのは、初、めて、だ!」 クラウスの魔力に反応してか、レイの体が喜んで敏感に反応をかえし跳ね返る。それを見られていると思うと、レイは恥ずかしさのあまり顔を隠した。 「……なるほど、前回やろうとしていた洗浄魔法か。ということは、ここは経験済みか?」 中をかき回されながら言われて、レイは唇を嚙み締めた。幻滅されただろうか。求められるまま抱いて抱かれた「調律の年」の行いを、ここにきて後悔することになるとは思わなかった。 「悪い、かよ……っ!」 苦し紛れにそう言うと、クラウスは小首を傾げながらさらりと言ってのける。 「いや? 私だって抱くのは君が初めてではない。そこはフェアにいこう。ただ……そうだな、見えない過去にいる敵と戦わなければいけないということと――少しの、嫉妬だ」 そう言い終わるや否や、下腹部に圧迫感を感じ始める。指は一本しか入っていないはずなのに、内側から何かが膨らんでいくような感覚がする。レイ自身はわからないのに、レイの魔力が喜んで腰に集まっていった。その圧迫感はゆるゆると動き、内壁を擦り上げていく。 「な、に……を……?」 感じたことのない感覚に体をひくつかせながらレイが聞くと、クラウスが「ん?」と首を傾げて、さも当然のように言ってくる。 「君の中を広げないといけないだろう? ……あぁ、魔力で押し広げられるのは初めてか? 今は大体、こんな感じだ」 そう言って、クラウスが空いている方の手をレイに見えるように出して、人差し指から器用に自身の魔力を長く太く伸ばして、密度を増すことで質量を持たせている。自身の中がどうなっているのかが分かって、レイは身もだえした。レイの魔力がクラウスの魔力に集りに行っている。もっと触ってほしいと強請るように。 しばらくしてクラウスの指が抜かれても尚、腹の中を触られている感覚は衰えない。 「~~~っ! 遠隔操作も、可能、なのか……これだから、魔術師って奴はっ!」 抗えない感覚に、レイは体をくねらせる。クラウスはそんなレイを見下ろしながら、耳元で囁いた。 「言っただろう? 優しくできる気がしない、と」 耳の奥に響く艶やかな低音に、眩暈を覚えたのも束の間、体の中にあるクラウスの魔力がレイの反応がいいところを探して動き始める。一点に触れた瞬間、レイの腰が跳ねあがった。触られたくない場所をずらそうと腰を動かすのに、クラウスの魔力はそこから離れようとしない。辞めさせたくて、レイは魔力を練り上げて反抗しようとするが、それを見たクラウスが、レイの目の前で人差し指を軽く動かすと、体の中で触れてほしくないところをクラウスの魔力が執拗に摺り上げた。息も絶え絶えにレイの嬌声があがり、頭の中で組み立てた魔法の構成が霧散していく。 「待って、待――ッ! 頼む、くらうす、たのむ、から!」 嬌声の合間に挟まるレイの懇願に、クラウスはご満悦のようだが、聞き入れてはくれない。もともと相性のいい魔力に執拗にソコを攻められ、レイはただ快楽に酔い始めた。 「変、に、なる! 変に、なる! から! くらうす、くらうす! やだ、やだ!」 理性のタガが外れそうになりながら、レイはただクラウスにしがみついた。クラウスは乱れるレイを嬉しそうに見ながらキスを落とす。すっかり調子が戻ったレイの下半身の先から、だらだらと零れるのを指で掬い取って、レイの穴へこすりつけた。 「……それだけ乱れられると、前にどれだけ開発されたのか気になるな。その割にはあまり使われた形跡もないが」 クラウスの一言に、レイは否定したくて顔を振るが、もう言葉を発するだけの力がなく、言葉にならないうわ言のような声を上げ続けた。レイの唇を奪っている間も、くぐもった嬌声が口から漏れる。低い胸の頂きを指の腹で押され、入り口を指で弄られ、中は魔力で擦り上げられる。長く執拗に攻められ、時間の感覚が麻痺してきた頃に、クラウスはレイの中に入っていた魔力を取り出した。 綺麗に循環している魔力を纏いながら、ひくり、ひくりと体を痙攣させているレイを見下ろしながら、クラウスはそそり立った自身をレイの穴に押し当てた。入口に押し当てられる感覚に、レイがびくりと体を震わせる。 「待、て……クラウス……前、より、おおきく、ないか?」 執拗な責め苦にレイの涙でぐちゃぐちゃの顔でクラウスを見上げると、クラウスは少し恥ずかしそうに俯いた。 「……前回は、初めて君と触れ合って、少々緊張していた、から」 「うそ、だろ……」 一緒に擦りあった時のことを思い出しても、やはり大きい気がする。あれで半勃ちだったとでも言うのか。意味がわからない。 「充分ほぐれてる。頑張ったな」 クラウスがレイの髪を撫でるが、レイは小さく顔を振ることしかできなかった。 「無理……絶対入らない」 「大丈夫だ。さっきこれぐらいのものは中に入っていた」 指で輪を作られるが、明らかにクラウスの方が太く、なんの慰めにもならない。むしろなんでさっき同じぐらいの太さで慣らしてくれなかったんだ。 ぴったりとくっついているクラウスの先端が、ぐっと近づく。 「む、無理、無理無理! 入ら――――っ!」 ズッ と中に入る圧力に、レイは言葉を失った。クラウスの魔力が、レイに寄り添う。まるで安心してほしいとでも言うかのように。少しずつ押し入るクラウスの感触に、レイはぎゅっと体を固くした。最初の入り口を先端が通って、ゆっくりと奥まで入ってくる。レイの魔力が喜んで、クラウスにまとわりついていく。クラウスの魔力もまた、レイの魔力を受け止めるように包み込んで、こすれ合って、絡み合った。 「レイ、大丈夫だから、息をしてくれ」 言われて、レイは自分が息を止めていたことに気付いた。浅く息をすると、クラウスが少しほっとしたような顔をする。 「痛いか?」 レイはその一言に、頭を振った。痛みはないが、あまりの質量に息が苦しい。クラウスが軽く笑って、レイの髪を撫でた。 「慣れるまでは、動かない。安心してくれ」 そう言うクラウスの体は震えている。動きたいのを我慢させているのが伝わってくる。レイはひくつく体を精いっぱい鼓舞して、自ら腰を動かした。クラウスが驚愕してレイを見下ろす。レイは、恥ずかしくなりながらも、その瞳を見据えた。 「れ、レイ、無理するな」 クラウスが心配そうにこちらを見るが、レイは首を振って腰を動かし、思い切って口を開く。 「俺だって、繋がりたくない、わけじゃ、ない」 手を伸ばして、クラウスの頬を包む。 「俺の中、変じゃない、か? 気持ち、いいか? ……もらってばっかは、なんか、嫌だ。ああいうのは、好きじゃない」 クラウスの頬に添えた手に、彼の手が重なる。きれいに微笑む彼の顔を見ながら、レイも笑った。クラウスの手が離れ、レイの顔の横に手を着いた。 「動くぞ」 クラウスの言葉に、レイはそっと頷く。クラウスの腰が動いて、中が擦られて、レイはまた嬌声を上げた。クラウスの唇が頬に落ちて、そのまま唇へと移動する。クラウスの息が上がるのが分かる。 「……レイ、気持ちいい。すごく、いい。腰が溶けてしまいそうだ」 腰の動きが早くなる。お互いの魔力が複雑に絡み合って、気持ちも一緒に昂っていった。お互いの気持ちが同じ方向を向いて、肌に任せて触れ合うのも、悪くないのかもしれない。 何度も抜いて入れてを繰り返しながら体位を変えて、クラウスはレイの反応を確かめる。どの体位でも、レイは気持ちよくてただ声を上げるだけの獣と化していた。 クラウスの腰を打ち付ける音が響き、同じだけレイも声を漏らした。 「レイ、好き、だ。好き、レイ。……レイ」 言わずにはいられないとでも言うように、クラウスがレイの名を呼び、腰を打ち付ける速さが増していく。 「変な、とこ、ばっかり、するな! こわ、壊れる! 気持ち、よくて、壊れる、から!」 「――そんな、可愛い事ばかり、言うと、ますます、いじめたくなる」 クラウスが息をのんで、腰を動かし続ける。 「君と、居ると、自分の中にこんな、嗜虐心があったのかって、気付かされるよ――レイ」 最後の呼びかけに、レイはびくりと体を震わせた。 「中に、出すぞ」 レイが大きく頷くと、クラウスの腰が何度も強く打ち付けられ、奥に奥に熱を吐きだす。中で長く震えるクラウスを感じながら、レイはクラウスと自身の迸る魔力が、二人の間で何度も何度も絡み合って、解ける瞬間に体の奥に深く高く響く共鳴音を聞いた。その音はいつまでもレイの中にこだまして、今までにないくらい、自身の魔力が穏やかに幸せそうに自身の周りに在るのを見て、浸った。前回の調律と比べ物にならないくらい、美しい調律音だった。 感動に浸っているレイを他所に、クラウスがレイの中から引き抜かれる。こぽり、とクラウスの熱があふれ出て、レイは小さく「出し過ぎだ、馬鹿」と言った。

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