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(続)第130.5話 我慢比べは終わらない ※
なんだか気持ちがいい。例えるなら、熱くもなく寒くもない湯の中につかっているような心地よさ。もしくは、清潔なシーツにくるまって惰眠を貪るような安心感。体の隅々まで潤っていくような感覚。何故かはわからない。だが、透き通るような甲高く綺麗な音が、小さく響いている。その音も気持ちがいい。なんだろう。分からないが、思考がままならない。
ただ、今はこのふわふわとした感覚が、ひどく心地よくて、たまらなかった。
突然のノックに、マルキオン教授はドアの方へ目を向けた。先ほど頼んだバケットとチーズでも届いただろうか。そんなことを呑気に考えていたら、執事がいうには客だという。ザルハディア王国で、魔術師である自分に、客。さらに言うなら、ペリスコット公爵家に滞在していることを知っているのは、ごく一部の人間だ。タイミングを考えると、おそらくケリーたちだろう。
通してもらうように伝え、マルキオン教授はグラスの中のワインを呷った。まだ飲みたい気持ちが強いが、先に聞いていた通り、秘密保持のために宣誓魔法を行使することになるのであれば、きちんと宣誓内容を確認しなければならない。さっきのワインも口にすべきではなかったと思うが、注いでしまったものを呑まずに放置するのは、ワイン好きの自分には拷問に近い。
再びノックが響く。促すと、ドアを潜ってきたのは小綺麗な格好をしたケリーとコリントだった。まさに、商人が貴族に会いに来た風を装っている。
「……よぉ。教授先生」
ドアが閉まったのを確認して、ケリーがどかりとソファに座り、そう声をかけてきた。
「なんだ、飲んでたのか」
「うん。一仕事終えたからね。飲む?」
グラスをもう二つ出そうと、魔法でワインセラーの隣にある棚を開いたが、乗り気のケリーに反してコリントが断った。
「レイとクラウスは?」
コリントから出た当然と言えば当然の問いに、マルキオン教授は一つため息を吐いた。
「……音合わせ中」
「は?」
マルキオン教授から飛び出た調律を示す隠語に、思わずコリントが声を上げ、ケリーが口笛を吹いた。彼らにしてみれば仕事中であり、レイの状態を知らなければそう思うのは仕方ないことなのだろう。
「おそらく、レイ君のあの薬が悪さしてるんだろうなとは思うけど」
マルキオン教授が空になったグラスを持ち上げ、中身は飲みきったんだと自嘲気味に置いた。マルキオン教授の言葉に、ケリーは身を乗り出した。
「それだよ。レイのあの薬っていうのはいったいなんだ? アイツぁ魔術師じゃねぇんだろ? あんなアホみたいな魔法撃てるわけがねぇ」
ケリーとコリントの視線がマルキオン教授に注がれる。だが、マルキオン教授は面白くなさそうにソファの背もたれに身を預けた。
「人の薬について、魔法薬士である僕がそう軽々と話すと思う? あとね、僕だってあの薬に副作用があることなんて知らなかったんだからね。教えてもらってないし。教えてもらってないし!」
拗ねたように言い返すマルキオン教授の言葉に、ケリーとコリントはめんどくさそうに顔を見合わせた。素面に見せかけて、確実に酔っているマルキオン教授の相手はてこずりそうだ。レイの調律が終わるまで待つのか?
ケリーとコリントは心の中でため息を吐いた。まったく、なんてタイミングだ!
クラウスは嬉しそうに蕩けた顔を見せるレイの首筋を唇でなぞりながら、ゆっくりとレイを押し倒した。レイの唇から漏れる喘ぎ声を、クラウスは努めて冷静に聞きながら首筋へ口付けた。いつものレイの声は、もっと恥じらいを持って響く。
そのままレイの薄い耳たぶを甘噛みし、痕を残さない程度に首元に噛みつく。いつもなら少し苦しそうな声を上げるレイも、今は鼻から抜けるような声しか上げない。何をしても、今のレイには気持ちよく感じられるのだろう。腹が立って仕方がない。
レイがクラウスの腕にそっと手を添えてくる。この行為は、レイがよくするものだ。邪魔するでもなく、言外にもっとと強請るような促し。こういうところは、やはりレイなのだと実感する。そしてそれが苦しくてたまらなかった。
そのまま全身の状態を確かめるように、できる限り普段通りにゆっくりと進めていく。だが、通った痕はつけない。普段なら嫉妬深く全身につける印も、今のレイには残さない。
全身を確かめ終わると、息を乱しながらくったりとしているのも普段と同じだ。だが、浮かべている表情が違う。いつものレイなら、ここから何が始まるのかを知っていて、期待と恥じらいを込めた瞳がこちらを向く。だが、今のレイは、ただ欲しい、もっと欲しい、とおもちゃを強請る子供のような貌をしていた。
まだ足りないか。レイの魔力が満たされるのはいつなのか。強化されていたとしても、そろそろ魔法薬の効果は切れてきてもいいのではないだろうか。
クラウスは再びレイの顔を覗き込む。こちらの方を向いているレイの瞳は、依然赤黒い。顔を近付けたことで、レイがキスしてもらえると思ったのか、顎を上げて唇を寄せて来る。クラウスはそのまま寄ってきた唇に応えた。ゆっくりと口内の温度を確かめ合うようにかき回し、レイの口の端から唾液が零れていく。
クラウスが体を起こそうとすると、レイの腕が逃がすまいとクラウスの背に回った。そんなにキスが好きならば、とより深く口付けながら、クラウスはレイが副作用で強請ってきた行動を余すことなく脳に刻みつけていた。
普段レイが恥ずかしがって強請らない行為が、おそらく前面に出てきている。クラウスにとって拷問のような根競べも、そういう意味ではあながち悪いことだけではなかった。
息が持たなくなってきたのか、レイの腕の力が緩み、唇が離れる。濡れる唇が一度閉じ、口内に溜まった互いの唾液を飲み下して、動いた喉をクラウスは見下ろしていた。
さぁ、次は? 垂れた唾液を指で掬い取り、口に含むレイの瞳はそう言いたげだった。
感情を押しやって、クラウスはレイの胸元へ舌を這わした。軽く漏れるレイの声に、クラウスはそのまま続けた。普段だったなら、同時進行で中をほぐす行為を行うが、少なくとも今のレイにそれを施す気持ちにはなれない。例え自身の芯がどれだけはち切れそうだったとしても。
レイの指がクラウスの肩から腕をなでおろし、そのまま指先へと降りていく。自ら指を絡ませ、ぎゅっと掴んでくるレイの細い指を、クラウスは一瞥して握り返した。戻ってこい、レイ。早く。
嘗め回すところがなくなったころ、レイは絡めた指を解いた。自らこちらの指を離す行為に、先ほどまでの「もらえるものは全てもらう」とでも言うかのような態度との差を感じる。何が起こるのかと、クラウスはじっとレイを観察した。
レイが四つん這いになり、肩越しにこちらを見つめてくる。クラウスの頭は爆発しそうだった。たまらず顔を覆う。
見たい。見たくない。これはいけない。我慢できない。自分の単純な下半身に、ここまで嫌気がさしたことはなかった。
「……レイ、あとで絶対……もう一度してもらうぞ」
唸るような低音が、自身の喉から苦しそうに零れた。
ケリーとコリントは、雑談を交えながらマルキオン教授がどこまで今回の事件について把握しているのかを確認した。概ねクラウスから報告された内容とほぼ同じであったが、この酔っ払いは、腹の底では勘付いていても口に出さない周到さがあった。おそらく諜報部の存在をなんとなく察してはいるのだろう。もともとクラウスの呪いの一件に関わっていたこともある人物だ。便宜上カーレンを情報源として伝えていることもあり、クラウスの母方の実家であるフォーリォル家とベイストンが、クラウスを呼び寄せるために今回の件を画策したことぐらいは、勘付いているだろう。更に言うなら、今回のテロ予告 による通行禁止令から、その黒幕はザルハディア王国であるということも。
そのまま三人は、宣誓魔法の内容を吟味していた。酔っぱらっているマルキオン教授も、話の内容の重さに真剣に向き合ってくれており、酔いも醒めたようだった。
「……ねぇ」
不意にマルキオン教授が声を上げた。どんな内容を盛り込むかを検討するのにあたり、内容を書き連ねていた紙からマルキオン教授の視線があがる。
「レイ君は、さ。今後もこんな危ない橋を、渡っていくことになるの?」
その言葉に、ケリーはぎくりとした。もちろんそこは諜報部の端くれ。表情には出していない。
話を聞いている限り、マルキオン教授は人がいいにも程がある。それは魔力の相性がいいレイや自身の恋人に限った話かもしれないが、レイに巻き込まれただけの完全なる被害者の口から、レイを慮る言葉が出てくるのだ。
「……それは、クラウスと一緒にいることで、ってこと?」
コリントがマルキオン教授の言葉を補足するように口を開く。それに対して、静かに頷いて返すマルキオン教授に、ケリーは少し視線を落とした。
マルキオン教授の指摘は尤もだった。クラウスは諜報部の中でも抜きん出た実力者だ。諜報部として、奴が抜けるのは非常に痛い。結婚を機に諜報部を辞めた者ももちろんいるが、正直それがクラウスに当てはまるかは分からない。ただ、公爵家の後継者となることで顔も売れるし、諜報活動に勤しむことはこれから難しくなっていくだろう。もし辞めるとなったとしても、万年人手不足な部署だ。外交活動を通じて諜報員を忍び込ませる協力者としては、これからも繋がりは切れないだろう。そういう意味では、マルキオン教授の言う「危ない橋」を、その伴侶となるレイは共に歩かねばならない。
「『絶対渡らねぇ』……ってのは、言えねぇなぁ」
一瞬、懐に入っている煙草に手を伸ばしそうになる。だが流石にまずいかと思い直し、ため息交じりに天井を見上げた。まったく、重い話をするときに煙草に手が伸びるのは、悪い癖だ。
「正直、どうなるかはわかんねぇ。あいつは所謂、『普通の貴族』っていう枠組みには入らねぇ位の持ち主だし、“こういう仕事”がなくなったからって、危険じゃねぇなんてこともねぇだろ」
「それは……そうかもしれないけど」
ケリーの言葉に、マルキオン教授は再び手元の紙に目を落とす。しかしケリーは、シミ一つない綺麗な天井を見上げながら、初めて顔を合わせた時のクラウスと、このザルハディア王国で久々に見たクラウスの姿を思い浮かべていた。
「俺個人としては、辞めちまえばいいと思ってる」
「ケリー!?」
突然の暴露に、コリントが驚きの声を上げた。しかし、ケリーは平然と視線をコリントに移し、言ってのけた。
「あいつぁ、俺たちとは違う。大事なモンのために、命 はれるようになった。それはつまり、俺たちの国を日の当たる場所で守れる覚悟を持ったってこった」
――まぁ、そういうところも含めて、国王とタールマンが今後の采配をしていくだろうが。絶句するコリントを横目に、ケリーは胸中で呟いた。タールマンはともかく、あの国王はなんだかんだ言いながらクラウスに甘い。
「ま、それも俺がどうこうできるような話じゃねぇわ。悪いな」
あっけらかんと言うケリーに、マルキオン教授は難しそうな顔をしながらも、一定の理解をしたように頷いた。
意識が浮上していく感覚に、レイは違和感を覚えた。なんだか息が荒い。体の感覚が鋭敏で、何より熱い。レイがそのまま目を開けると、ペリスコット公爵家の天蓋があった。ゆるゆると視線を落とすと、何故か服を着ていない。あろうことか、腹もベッドもぐっしょりと濡れている。
状況が理解できず、レイは自分の下半身に顔を寄せている綺麗な白金髪の恋人を黙って見た。
目が合う。クラウスの瞳がレイを捉え、ゆっくりと上体を起こした。
「……レイ?」
呼ばれ、頷く。頭が拒否しているかのように思考が働かない。目の前の現実を直視できそうにない。クラウスが自身の唾液でなのか分からないが、濡れた口元を手の甲でぬぐっているのが見える。
「いったい、なに、が……」
喉がカラカラで声が出しづらい。汗で顔に貼り付いた横髪をはらおうと手を持ち上げ、気付く。手に纏っている魔力が、非常に緩やかに、綺麗に、活き活きと循環している。まるで調律したかのように。
いや待て。待ってくれ。自分はリミッター解除薬の副作用でマルキオン教授を襲わないように、麻酔で眠っていたはずだ。その間に、クラウスが寝込みを襲うようなことをするはずがない。それに、調律してあると言っても、普段ほどではない。何が一体どうなっている?
愕然としてクラウスを見上げると、そこには肩で息をする珍しい姿の恋人の姿があった。
視線が合った瞬間、クラウスから濃い魔力が放出された。全身をどっぷりとクラウスの魔力が包み込み、頭の芯が一気に鈍る。思わず、くはっと息を吐いた。過去に感じたことのない濃度のクラウスの魔力。その興奮の度合いがすさまじく、レイの魔力が反応して喜び始めた。
頭が混乱する中、無様に反応する自分を見られたくなくて身じろぎする。それを見下ろしながら、クラウスは嬉しそうに目を細めた。
「やっと……やっと、レイだ」
クラウスがレイの肩に手をかけ、覆いかぶさるように顔を近付けてきた。まるで熱に浮かされたかのように欲望を隠さないクラウスが、レイの唇にしゃぶりつく。
問答無用で口内を舐 られ、苦しくて眉が寄る。普段よりも少し乱暴なキスに、レイは戸惑いを隠せなかった。
「ちょ、待、クラウス、少し話を――」
クラウスの唾液でのどを潤し、レイはクラウスに制止を求めた。しかし、目の前の獰猛な雄は聞く耳を持たない。
「もう待たない。私は、充分待った」
クラウスが魔力を操作して器用にレイをひっくり返す。濡れたシーツがぺしゃりと音を立てたのが気になったのか、クラウスは簡単に洗浄魔法を行使した。乾いたシーツの上で寝転ばされて、レイは肩越しにクラウスを見る。藍色の瞳が、まるで餌を前にした捕食者のようにぎらぎらとしていた。
「さぁ、レイ。君の望み通り、続きだ」
「つ、続き?」
望み、とは? いったい何が起こっているのかさっぱり分からない。
クラウスに腰を持ち上げられ、レイはぞくりと体の中が疼くのを感じた。まるでクラウスと調律するときの、慣らされた後のような高揚感が駆け巡る。
後ろにあてがわれたと思った瞬間、自身の体はやけにすんなりとクラウスを受け入れた。驚愕する暇ももらえず、過去感じたことのない快感が押し寄せる。
「~~~~ッ!」
一気に最奥まで貫かれ、レイは言葉を失った。体が震えるほどの快楽に、息が止まる。体が支えられそうになくて肘をつくと、そのまま両腕を取られ背後に回された。不安定な体勢のまま、何度も奥へと押し進もうとするクラウスに、レイは我慢しようとしているのに声を漏らしてしまう。聞いていて綺麗な声ではないだろうに、レイが声を上げるたびに、まとわりつくクラウスの魔力が喜んでいるのが伝わってくる。
全身汗まみれになり、体勢の辛さからレイが身を捩ると、クラウスは腰を振る速度を抑え、レイの手を解放した。代わりにゆっくりと奥に押し付けられ、レイは浅く呼吸を繰り返しながら、快感に耐えていた。
不意に後ろからクラウスのくすりと笑ったのが聞こえる。
「良さそうだな、レイ」
意地悪く呟く艶やかなクラウスの低音にすら、体が無意識に反応する。カァッと熱くなる頬を見られたくなくて、そのままベッドに顔を押し付けた。
しかし、クラウスはそのままレイの胴に手を回し、あろうことかそのまま持ち上げた。
「レイ」
わざと耳元でこちらを呼ぶクラウスから顔を背けると、耳たぶを甘噛みされた。吐息が耳にかかり、指の先までくすぐったさが走る。
「もう少し、進むぞ」
その宣言に、レイは顔を背けるのをやめた。見上げたクラウスの顔は、笑っているものの余裕はなさそうだった。明らかに我慢している顔に、心の奥が熱くなる。
「すす、む?」
レイの承諾の言葉を待たずに、自身の腰の上にレイをそのまま降ろしていく。再び深くクラウスが入って来て、レイは成す術もなく声を上げた。最奥を押し上げようとするクラウスに、レイは思わず顔を振った。
「ま、待て! それ、以上、は、入、らない!」
快感に震えながら、レイが抗議の声を上げるが、それでもクラウスはレイの頭に唇を寄せるだけで、何も言おうとしない。ゆっくりとレイの体を沈み込ませるように奥を押し上げ、理性の壁を越えようとしてくる。
期待と不安で頭がぐちゃぐちゃになり、体が震え始めた頃、クラウスがレイの顎に手を添え、無理やり唇を塞いだ。
「……~~~~ッ!」
クラウスがレイの中で一線を越えた瞬間、腰から上がってくる感覚にレイは体を仰け反らせた。目の前がちかちかする。血が沸騰しそうな程に熱い。理性の檻が瓦解して、もう何も考えられない。
越えた。越えてしまった。知らないでいたかった。侵入を許していなかったところへ招き入れてしまった背徳感と、頭の先まで突き抜けていく暴力的な快感。頭がどうにかなってしまいそうだ!
「ぅっ……レ、イ。きつ、い」
「む……りぃッ!」
二人で悶えながら、どろどろに溶けた思考の中で、行為は続いていく。クラウスが中を突くたびに、レイの口からは嬌声が漏れる。理性も知性もない、ただ一つになりたいという願望だけが、二人を高めていく。
「レイ! イ、くッ!」
その宣言のあと、クラウスの腰が強く打ち付けられ、二人で同時に果てた。
深く高く耳の中に響き渡る調律音。その美しさに浸りながら、レイは息も絶え絶えにベッドに突っ伏した。もう指先一つ動かせない。
だから、そろりと動き始めたクラウスの意図に、レイは気付けなかった。優しくレイを仰向けにし、軽くキスを落としたこの男の手が、愛でるようにレイの体をなぞっていく。それが気持ち良くて、ぼうっとした頭でそれを受け入れていた。
そのままレイの下腹部へクラウスの手が伸びて、一気に頭が覚醒する。
「く、クラウス?」
嫌な予感がして、レイはクラウスの名を呼んだ。しかし、クラウスは応えない。そのまま再び前戯に移ろうとするクラウスに、レイは思わず叫んだ。
「も、もう無理! これ以上イきたくな……ッ! クラウスッ!」
叫んでいる最中、結界のない防音機構装置 の効果が緩み、突如消えた。すぐさまクラウスが防音結界を張ったが、レイの懇願は一部、屋敷に響き渡った。
「さて、と。結構いい時間だ。そろそろ、あっちの方も落ち着いただろ」
マルキオン教授との話し合いに一区切りつき、ケリーは立ち上がった。遺恨を残さないためにも、この一件に深く関わらざるを得なくなってしまったレイの了承の下、宣誓魔法の行使について話を進めたい。おそらくレイの性格上、マルキオン教授とぎくしゃくしてしまっていても、それはそれとして割り切れるだろう。
仲睦まじく疲れて眠ってるかもしれないが、こちらとしても時間は無駄にしたくない。
「クラウスたちは、どの部屋に――」
そうマルキオン教授に声をかけた時だった。
――……り! これ以上イきたくな……ッ! クラ――
突然聞こえた叫び声に、ケリーたちはぴたりと動きを止めた。声が途切れたと同時に、防音結界が二つ隣の部屋で行使された気配がする。
全員が全員、目を合わさずにあらぬ方を向いている。気まずい沈黙が部屋を支配した。
「…………あー」
ケリーが気まずそうに、もう一度ソファに腰を下ろした。
確かに、結界のない防音機構装置 に使われている魔力石は、そこまで良い代物ではなかったと思う。だが、それが切れるまで使うって、いったいどういうことだよ!
「……やっぱり俺も、もらっていいか?」
沈黙に耐え切れず、ケリーが額を押さえながらワイングラスを指差した。
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