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第11話 送り狼なのかもしれない
……もう、限界。マジで。
ずっと理性を握り締めてたけど、ここまでされたら無理だ。
押し倒してしまえば、柏木さんがどうなるのか、どこまで許すのか。
そんなことばっか、頭の中でぐるぐる回ってる。
ベッドの上、柏木さんの身体に自分の体重を預けて、完全に動けないように封じ込める。
「ちょっ、いつき……! 重いっ……!」
「脱がせろ、なんて言われたら……こうされるの、期待してたって思いますよ?」
「……んなわけねーし!」
唇がほんの数センチまで近づくと、柏木さんはわかりやすく目を逸らす。
「こっち見てください」
顎に指を添えて顔を戻させる。
うっすら開いた唇に、そっと舌先を滑らせると――
「……んっ、」
ほんの少しのキスでも、柏木さんの反応は敏感すぎて息が漏れる。肌に触れると、一瞬驚いたように俺の手を払いのけようとした。
でも、もう片方の手でその手を制して、再び素肌を撫でる。
「やめろっ……て」
「やめませんよ」
そのまま腰を引き寄せて、ぴたりと密着させる。
「お前、後輩やろ……! なんで俺が襲われなあかんねん……!」
笑いそうになるけど、こっちは本気だ。冗談のテンションなんかじゃ動けない。
「後輩とか、もう関係ないですって」
柏木さんの熱が、じわじわと手のひらから伝わってきて全身が痺れる。
太ももの間に挟んだ脚には、ぎゅっと力が入っていた。
「やめろって言うてるやろ……」
「口ではそう言ってても、身体は全然拒否してないじゃないですか」
そう言って、腰骨のあたりに指先をすべらせる。指が触れた瞬間、ぴくんと腰が跳ねた。
「ぁっ……あぁ……」
その声に、思わず喉が鳴る。
吐息混じりの、甘く震えるその響きが……耳に残って離れない。
「柏木さん、そんな声出すんですね……」
「っ……」
返事をする代わりに、唇をきゅっと噛んで顔を背けた。
けど、俺から逃げるわけじゃない。
「めっちゃ顔赤いですよ、柏木さん」
「っ、うるさい……ちょ、どけって……!」
「やだ。だって……柏木さんのこういう顔、俺、初めて見たんで」
堪えきれず、口元が緩む。笑いながらも頭の奥がクラクラするほど、目の前の柏木さんが色っぽい。
「今は俺だけが聞いてるんですよね。柏木さんの関西弁も、その声も、全部」
耳元に唇を寄せて、わざと吐息を混ぜながら囁いた。
「……っ、」
ピクリと肩が跳ねて、柏木さんの指が俺のシャツをぎゅっと掴んできた。
拒絶じゃない。その力加減はしがみついてるみたいだった。
「……耳、弱いんですね。じゃあ、こうされたら?」
舌先でそっと耳の裏をなぞる。ぬるっとした音が、わざと聞こえるようにゆっくりと。
「あ……っ、んっ……!」
逃げるように首をすくめるのに、逃げきれない。ベッドの上で、完全に俺の腕の中に収まってる。
「柏木さん……腰、動いてますよ」
「っ、し、知らんっ……」
苦し紛れの言い訳に、思わずにやりと笑った。
「俺の脚に、ぐいぐい擦りつけて……。そんなに我慢できないです?」
「ちゃうって……っ」
そう言いながらも、腰が小刻みに震えて何度も喉が鳴る。
その声、その体温、その表情……全部が、今の俺を煽ってくる。
「……調子乗りすぎや、っ……」
掠れた声。熱のこもった潤んだ目。
吐息の合間から漏れる言葉が、どれもこれも甘すぎる。
「柏木さんが、俺を調子に乗らせたんですよ」
「……うるさい……」
震える指が俺の腕を掴んで、どこか頼るようにきゅっと力がこもる。
首筋にそっと唇を押し当てると、体がびくん、と跳ねる。
「柏木さん、かわいい……」
「っ……も、そこ……あかんって……!」
「弱いとこなら……もっと攻めたくなりますね」
唇を、耳の後ろから喉元へとゆっくり這わせて。
もう、あと一歩。ほんのひと押しできっと全部が崩れる。
「柏木さん……めっちゃ息上がってるのに、まだ"やめて"って言います?」
「……知らねえ、もう、……」
熱くなった額を俺の肩にこすりつけるようにして、息だけが浅く早くなっていく。
柏木さんの手が俺の腕を掴む。引き止めたいのか突き放したいのか、自分でもわかってないんだろう。
指先が柏木さんの首筋に触れた。熱がすごい。
「こうされるの……嫌ですか?」
「……っ、アホか、」
「じゃあ……アホな俺が、もうちょい踏み込んだら、どうします?」
「踏み込むって……」
「︎もしかしてして期待してるんですか?」
「誰がっ……!」
怒鳴りかけて、でも声は最後まで出なかった。俺がそっと唇を近づけたから。
触れる寸前で止まって、ほんの少しだけ吐息を落とす。
「ねえ、柏木さん。もう少し……していいですか?」
柏木さんは答えない。けど……拒否も、しない。
「……柏木さんが、かわいすぎるのが悪いんですよ」
「は……?」
ゆっくり、柏木さんの顔に近づいた。目の奥が揺れてる。唇が薄く震えてる。
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