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第22話 やめろって言っても、どうせ…… ※R-18
ベッドに入ってから、15分は経っている。
部屋の明かりは消えているが、カーテンの向こうの街灯が、わずかに輪郭を照らしていた。
「……柏木さん、まだ起きてます?」
「寝かせろって言うてるやろ、さっきから」
「はい。でも、全然寝ようとしない人が言っても説得力ないんですけど」
「なにが、」
振り向いた瞬間、腰をぐっと掴まれて、体ごと樹の方に向かされる。
「おい……」
「キスくらい、してくれてもよくないですか?」
「――何回目や、そのセリフ」
「何回言っても、OK出ないからです」
布団の中で、腕がそっと絡まる。
思わず息をのんだまま、抱きしめられる格好になっていた。
「……出張前やろ。早く寝とけ。体力残せ」
「はい。じゃあ――チャージさせてくださいよ?」
「……は?」
樹が唇をそっと寄せてくる。浅く、じらすように優しく触れるだけ。
舌なんか使ってこない。でもその分、何回もしてくるから、妙にやらしい感じがする。
「……おい、調子に乗んなよ」
「乗ってません。ちょっと甘えてるだけです」
耳元で息を吹きかけるように囁かれて、背筋がわずかにぞくっとした。
――その瞬間、どこかから「にゃあ」という短い声。
メイがベッドの端から俺の顔を覗き込んでた。前足を俺の枕にかけて、じっと見つめてくる。
「……メイ、何や?」
「嫉妬じゃないですか?」
「……はあ?そんなわけないやろ」
「でも俺が近づくと、だいたい邪魔してくるんですよね……メイちゃん、やきもち?」
「やめろ、喋んな、余計な擬人化するな」
メイはしばらく俺の顔を見つめたあと、ふいっと背を向けてベッドから降りていった。
……どうせ、あとでまた戻ってくる。
「今のうち。……ね、柏木さん」
再び、樹が布団の中で距離を詰めてくる。肌の温度がじかに伝わる。生意気な目をして、首元に頬をすり寄せてきた。
「お前って奴は……」
文句のつもりで口を開いたのに、そのまま唇を重ねられる。
今度は、深く、長く――熱が逃げないように押しつけるようなキス。
その甘さに、寝かせる気なんてないのがよくわかった。
「柏木さん、もうちょっと、俺に甘くしてもよくないですか?」
樹は俺の腰のあたりを撫でながら言ってくる。
息がかかるほど近くて、唇がときどき俺の首筋をかすめるたび、鼓動がいやに大きくなる。
樹の手が服の裾から潜り込み、素肌に触れ始めたあたりで、俺はたまらず手を伸ばして制した。
「おい、触んなって……」
そう言っても、樹は悪びれる様子もなく、にやりと口角を上げる。
「触るなって言われると、余計触りたくなるんですけど」
「……最低やな、おまえ」
「じゃあ、柏木さんが触ってくれます?」
「は?なんでや……」
その瞬間、樹が俺の手をとって、自分の太ももの奥へと誘ってきた。
下着越しでもわかる、熱く硬くなった感触が掌にじかに伝わる。
「っ、おい……」
思わず声が詰まる。でも、樹は低く、熱を帯びた声で囁いてくる。
「ほら、わかりますか。俺、ずっと……こんなんで、我慢してました」
その言葉の重さと熱に反応する間もなく、体が押し倒され、仰向けに寝かされる。
ベッドの軋む音が、やけに現実的に響いた。
「ねぇ、柏木さん……」
「……なにが“ねぇ”だ、バカ。……重いって」
文句を言いながらも、声がどこか掠れていて、自分でも余裕がないのがわかる。
樹はそんな俺をじっと見下ろして、笑ってやがる。
「だって、動いたら逃げるでしょ?」
「誰が……」
反論しかけたその口を、樹の唇がふさぐ。
やわらかく、ゆっくりと触れてくるキス。軽いのに、逃げ場のない距離で。
目の前で、にやっと笑う樹の瞳がやけに近い。
言葉では突っぱねているのに、耳のあたりが熱くなってくるのが自分でもわかる。
「柏木さんが、誘ったくせに」
「……そんなつもりじゃねえよ」
「じゃあ……身体に聞いてみます?」
片膝を立てて跨がる樹。俺の太ももにかかる重みが、じわじわと体温を伝えてくる。
両手は布団の上で軽く押さえられて、逃げようと思えば逃げられるはずなのに――なぜか動けない。
「柏木さん、すっごくドキドキしてるの、わかりますよ? こうしてるだけで伝わってきます」
耳元に落ちてくる、低く甘い声。
息が混じった囁きが、ぞくりと背筋をなぞっていく。
「……ッ、ば……っ……」
「柏木さんが可愛いから……いっぱい気持ちよくしてあげたくなるんですよ」
「調子乗んな、ほんまに……」
「乗ってるのは……そっちでしょ?」
そう返した樹の唇が、ゆっくりと鎖骨のあたりに降りてくる。
布越しに触れた舌先が、わざと敏感なところをなぞって――思わず息が詰まる。
「ん……っ、ちょ……やめろって……!」
揺らいでいく呼吸。
それでも抗おうとする俺に、樹はあえてやさしく、だけどじわじわと追い詰めるように言う。
「やめてほしいなら、もっとちゃんと嫌がってくださいよ」
低く落ちた声が、吐息混じりに耳元をくすぐる。距離なんて、もうなかった。完全に入り込まれている。
シャツの裾から滑り込んできた指先が、腹筋のラインをくすぐるようにゆっくりなぞっていく。
思わず息を詰めた瞬間――耳のすぐそばで、くくっと小さく笑う声。
「こうすると、柏木さん、びくってなるの……可愛いなって思って」
「っ……くそ、樹、お前……」
言いかけた言葉が、途中で途切れる。
ふいに、下着の上から俺の中心を、樹の指がゆっくりと撫でてきた。
「お前……どこ触って……っ」
「柏木さん、こうされるの嫌ですか?」
わざとらしく言って指を滑らせてくるその手首を掴んでも、簡単にすり抜けてくる。
「……うるせぇ。わかってやってんだろ」
「柏木さんってさ、ほんと反応かわいい……俺ばっか好きみたいで、悔しくなる」
「……誰が、好きなんて言ったよ」
そう言い返しても、樹の腕と脚にがっちり押さえ込まれて、身動きひとつできない。
わずかに身じろぎしただけで、腰と腰が擦れ合って――その感触に、ぞくりと熱がこもった。
「……ね、柏木さん。俺のこと、ちゃんと見て。ちゃんと……欲しがってくださいよ」
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