33 / 64

第33話 口説き文句はベッドの上で ※R-18

「全部欲しい」なんて―― そんなセリフ、今まで何度も聞いてきた。 誰かが俺に向けて、酔った勢いで、甘ったるい声で。 身体も、時間も、心まで。 平気な顔して、欲しい欲しいって言ってくる。 ……そんなの、見飽きるほど見てきた。 なのに今は、俺がそれを言いたくなってる。 澄人くんの全部が欲しい、なんて馬鹿みたいだ。 それでも……俺だけが触れていたいって、思ってる。 腰を撫で、太腿をなぞり、そのまま服の上から澄人くんの中心へと指先が触れた瞬間―― 「っ……! そ、そこは……っ」 びくりと身体を震わせて、澄人くんが慌てて声を上げる。 「ん? なに?」 とぼけたふうに返しながらも、俺の手はゆっくり、優しく動き続ける。 「……ちょ、やめ……蓮……っ」 言葉とは裏腹に、拒絶するにはあまりにも力のない声。 ほんの少し撫でるだけ。それだけで澄人くんの呼吸が乱れていくのが、可愛くてたまらない。 「ねぇ、もっと見せてよ。澄人くんの、そういう姿」 「っ……ん、……」 下着の中に指を滑らせると、澄人くんの呼吸が浅くなっていくのが分かる。 手は全然押し返せてない。それどころか、指先がほんの少しだけ俺のシャツを掴んできた。 「“やめて”って言いながら……俺のこと、誘ってる?」 「ちがっ、……ちがう……っ」 耳のすぐ近くで囁いてみると、びくっと震える。 顔を背けたまま、声を殺そうとしてるその姿に、俺はさらにそそられる。 「声、もっと聞かせて。……全部、俺だけに」 下着もろともズボンをずりおろすと、緩く勃ち上がった性器が露出した。 「……!! おいっ……マジで……まてって!」 恥ずかしいのか慌てて隠そうとした手を退けさせ、根元から先端まで裏筋をゆっくりなぞっていく。 「はぁ……、ぁ……っ」 「気持ちいい?」 そっと顎をすくって、唇が触れ合うギリギリの距離で囁く。 澄人くんは、まっすぐこっちを見てくれなくて、視線を泳がせたまま首を横に振る。 「じゃあ、もっと触ってあげる」 悪戯っぽく笑って、澄人くんのモノを掴み、そのまま撫でるように上下させる。 「……っ、あ……ぁ……」 泣きそうな目のままで、俺を見上げる表情が――もう、反則。 「そんな顔、されたらさ……我慢できなくなる」 わざと耳元で囁くと、「……うるさい」って小さく抗議される。でも、拒絶の気配はまったくない。 「ねえ、澄人くん」 その柔らかな髪にキスを落として、少しだけ低く、けれど優しい声で囁く。 「……後ろ触っていい?」 びくっと、少しだけ身体が強張る。それでも離れていかないその背中を抱き寄せた。 俺は、澄人くんの後ろへ――そっと、指を這わせる。 後孔に指先が触れた瞬間、その柔らかさに、思わず動きが止まった。 「……なるほど」 ぽつりと呟くと、澄人くんの肩がぴくりと震える。 視線を合わせかけたその瞬間、すぐに逸らされた。目は泳いで、唇がなにかを言おうとしてはすぐに閉じる。 「……誰かに、されたことがある?」 からかいじゃなく、穏やかに。 でも、逃がさない声で。 「ちが、……そんなの……っ」 小さな否定。けれど声がかすれていて、説得力はない。 「ふうん。じゃあ――ここ、初めて? ……違うよね」 そう言いながら、優しく指先で突く。 澄人くんの喉がひくりと鳴って、浅く息を吸い込むのが分かる。 「っ、……あ……やめ……」 抗議の声は弱々しくて、押し返す力もない。 指を少しだけ沈めると、シーツを握る手がきゅっと強くなる。 「……大丈夫。乱暴なことはしないから」 耳元でそう囁くと、澄人くんの体がまた小さく震えた。 「……っ、蓮……、おまえ……」 息が詰まったように返してきた澄人くんの目は、潤んで揺れてる。 でも、否定の言葉は、苦しげな喘ぎと混ざって――もう、説得力なんてない。 さらに澄人くんを乱すように、わざと優しく、丁寧に触れる。 「俺の知らない顔、他の奴に見せてたかと思うとさ……」 嫉妬を隠すつもりなんて最初からない。耳元に唇を寄せて、低く囁いた。 「ぜんぶ、上書きしたくなるよね」 俺の指がすんなり入って、澄人くんの身体がびくりと揺れた。 指の腹でゆっくり中を探るように擦ると、澄人くんが息を吸い込む音が聞こえた。肩が、小さく震える。 「……あ、ぁ……っ」 そのまま指を、ゆるく螺旋を描くように動かす。 すると、澄人くんの腰がぴくりと反応して、逃げるように浮き上がった。 「や、やだっ……そ、こ……っ」 そう言いながらも、首を振る仕草は弱くて。 赤くなった頬に、震える指先が俺のシャツをぎゅっと掴んでいる。 「……ちゃんと俺に任せて。……いい?」 囁けば、返ってきたのは小さな抵抗の声。 「……ふざけんな……」 そう言いながらも、澄人くんの指はまだ、俺の服を離していなかった。 「気持ちいいトコ、どこ?」 わざと低めの声で問いかけながら、さっき強く反応していた場所を探るように擦る。 澄人くんの身体がびくりと震えて、首を横に振る。 「っ、あ! あ、……っ」 「……ここ、気持ちいい?」 そっと問いかけながら指を滑らせると、澄人くんは目をぎゅっと閉じて、耐えるように唇を噛んだ。 「……あ、ぅっ…、ん……っ」 腰は逃げるのに、俺の手からは離れようとしない。 顔を逸らされたから表情はよく見えないけど、耳が赤く染まってるのがわかる。 「……かわいい」 かすれた声が漏れるたびに、俺の胸の奥がじわっと熱くなる。 ――そのとき。 ベッドサイドに置かれた、澄人くんのスマホが振動した。 一度、二度…… 澄人くんの表情がふっと曇った。わずかに首を伸ばし、スマホの画面を覗く。 俺もさりげなく目線をそらしつつ、ちらりと確認する。 けれど、発信者名は読み取れなかった。 「……出てもいいよ?」 努めて平静な声でそう言ったけど、胸の奥に、ざらりとした何かが滲んでいた。

ともだちにシェアしよう!