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第33話 口説き文句はベッドの上で ※R-18
「全部欲しい」なんて――
そんなセリフ、今まで何度も聞いてきた。
誰かが俺に向けて、酔った勢いで、甘ったるい声で。
身体も、時間も、心まで。
平気な顔して、欲しい欲しいって言ってくる。
……そんなの、見飽きるほど見てきた。
なのに今は、俺がそれを言いたくなってる。
澄人くんの全部が欲しい、なんて馬鹿みたいだ。
それでも……俺だけが触れていたいって、思ってる。
腰を撫で、太腿をなぞり、そのまま服の上から澄人くんの中心へと指先が触れた瞬間――
「っ……! そ、そこは……っ」
びくりと身体を震わせて、澄人くんが慌てて声を上げる。
「ん? なに?」
とぼけたふうに返しながらも、俺の手はゆっくり、優しく動き続ける。
「……ちょ、やめ……蓮……っ」
言葉とは裏腹に、拒絶するにはあまりにも力のない声。
ほんの少し撫でるだけ。それだけで澄人くんの呼吸が乱れていくのが、可愛くてたまらない。
「ねぇ、もっと見せてよ。澄人くんの、そういう姿」
「っ……ん、……」
下着の中に指を滑らせると、澄人くんの呼吸が浅くなっていくのが分かる。
手は全然押し返せてない。それどころか、指先がほんの少しだけ俺のシャツを掴んできた。
「“やめて”って言いながら……俺のこと、誘ってる?」
「ちがっ、……ちがう……っ」
耳のすぐ近くで囁いてみると、びくっと震える。
顔を背けたまま、声を殺そうとしてるその姿に、俺はさらにそそられる。
「声、もっと聞かせて。……全部、俺だけに」
下着もろともズボンをずりおろすと、緩く勃ち上がった性器が露出した。
「……!! おいっ……マジで……まてって!」
恥ずかしいのか慌てて隠そうとした手を退けさせ、根元から先端まで裏筋をゆっくりなぞっていく。
「はぁ……、ぁ……っ」
「気持ちいい?」
そっと顎をすくって、唇が触れ合うギリギリの距離で囁く。
澄人くんは、まっすぐこっちを見てくれなくて、視線を泳がせたまま首を横に振る。
「じゃあ、もっと触ってあげる」
悪戯っぽく笑って、澄人くんのモノを掴み、そのまま撫でるように上下させる。
「……っ、あ……ぁ……」
泣きそうな目のままで、俺を見上げる表情が――もう、反則。
「そんな顔、されたらさ……我慢できなくなる」
わざと耳元で囁くと、「……うるさい」って小さく抗議される。でも、拒絶の気配はまったくない。
「ねえ、澄人くん」
その柔らかな髪にキスを落として、少しだけ低く、けれど優しい声で囁く。
「……後ろ触っていい?」
びくっと、少しだけ身体が強張る。それでも離れていかないその背中を抱き寄せた。
俺は、澄人くんの後ろへ――そっと、指を這わせる。
後孔に指先が触れた瞬間、その柔らかさに、思わず動きが止まった。
「……なるほど」
ぽつりと呟くと、澄人くんの肩がぴくりと震える。
視線を合わせかけたその瞬間、すぐに逸らされた。目は泳いで、唇がなにかを言おうとしてはすぐに閉じる。
「……誰かに、されたことがある?」
からかいじゃなく、穏やかに。
でも、逃がさない声で。
「ちが、……そんなの……っ」
小さな否定。けれど声がかすれていて、説得力はない。
「ふうん。じゃあ――ここ、初めて? ……違うよね」
そう言いながら、優しく指先で突く。
澄人くんの喉がひくりと鳴って、浅く息を吸い込むのが分かる。
「っ、……あ……やめ……」
抗議の声は弱々しくて、押し返す力もない。
指を少しだけ沈めると、シーツを握る手がきゅっと強くなる。
「……大丈夫。乱暴なことはしないから」
耳元でそう囁くと、澄人くんの体がまた小さく震えた。
「……っ、蓮……、おまえ……」
息が詰まったように返してきた澄人くんの目は、潤んで揺れてる。
でも、否定の言葉は、苦しげな喘ぎと混ざって――もう、説得力なんてない。
さらに澄人くんを乱すように、わざと優しく、丁寧に触れる。
「俺の知らない顔、他の奴に見せてたかと思うとさ……」
嫉妬を隠すつもりなんて最初からない。耳元に唇を寄せて、低く囁いた。
「ぜんぶ、上書きしたくなるよね」
俺の指がすんなり入って、澄人くんの身体がびくりと揺れた。
指の腹でゆっくり中を探るように擦ると、澄人くんが息を吸い込む音が聞こえた。肩が、小さく震える。
「……あ、ぁ……っ」
そのまま指を、ゆるく螺旋を描くように動かす。
すると、澄人くんの腰がぴくりと反応して、逃げるように浮き上がった。
「や、やだっ……そ、こ……っ」
そう言いながらも、首を振る仕草は弱くて。
赤くなった頬に、震える指先が俺のシャツをぎゅっと掴んでいる。
「……ちゃんと俺に任せて。……いい?」
囁けば、返ってきたのは小さな抵抗の声。
「……ふざけんな……」
そう言いながらも、澄人くんの指はまだ、俺の服を離していなかった。
「気持ちいいトコ、どこ?」
わざと低めの声で問いかけながら、さっき強く反応していた場所を探るように擦る。
澄人くんの身体がびくりと震えて、首を横に振る。
「っ、あ! あ、……っ」
「……ここ、気持ちいい?」
そっと問いかけながら指を滑らせると、澄人くんは目をぎゅっと閉じて、耐えるように唇を噛んだ。
「……あ、ぅっ…、ん……っ」
腰は逃げるのに、俺の手からは離れようとしない。
顔を逸らされたから表情はよく見えないけど、耳が赤く染まってるのがわかる。
「……かわいい」
かすれた声が漏れるたびに、俺の胸の奥がじわっと熱くなる。
――そのとき。
ベッドサイドに置かれた、澄人くんのスマホが振動した。
一度、二度……
澄人くんの表情がふっと曇った。わずかに首を伸ばし、スマホの画面を覗く。
俺もさりげなく目線をそらしつつ、ちらりと確認する。
けれど、発信者名は読み取れなかった。
「……出てもいいよ?」
努めて平静な声でそう言ったけど、胸の奥に、ざらりとした何かが滲んでいた。
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