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第34話 余裕の仮面が、剥がれてく ※R-18
澄人くんは、スマホを手にしたままじっと見つめてたけど、結局なにもせずに画面を伏せた。
「……やめとく」
その一言に、胸の奥がふっと軽くなった気がして――そんな自分に、思わず小さく舌打ちしそうになる。
「仕事の連絡……じゃないんだ?」
自分で聞いたくせに、その声にどれくらい余計なものが混じってたかは、よくわからない。探るつもりなんてなかったのに。
「……ごめん。やっぱり、ちょっと出るわ」
そう言ってスマホを手に取った澄人くんは、画面を見つめたあと、少しだけ表情を緩ませて通話を始めた。
「……はい。ああ、今? ……うん、大丈夫」
“今、大丈夫”。
――つまり、俺の存在は、そこに含まれていないってことだ。
澄人くんの視線は一度もこちらに向かないまま、スマホ越しに誰かと言葉を交わしている。
静かな声。でも、どこか柔らかくて無防備で、気を許してるような響きがあった。
……そんな声、俺には一度も向けたことないよね。
モヤモヤするだけで言葉にはできなかった。
俺はただのホストで、この関係だって「遊び」の延長にすぎない。
澄人くんは、どう見ても俺のことを意識してるくせに、相変わらず平然とした顔をしている。
その態度がどうにも引っかかって、やけに癇に障った。
「ふっ、……あとちょっとやろ、頑張れ」
胸の奥にじくじくとした棘みたいなざらつきが広がっていく。
うまく言葉にできないそれをごまかすみたいに、俺は澄人くんを抱きしめたまま、また静かに指をナカへ滑り込ませる。
「……っ」
息を呑んだ澄人くんの肩が、俺の腕の中で小さく震えた。
慌てたようにスマホを耳から少し離して、もう片方の手でそっと口元を覆う。
「……っ、ぅ……」
漏れそうになった声を、なんとか押し殺そうとするその仕草が――たまらなく可愛かった。
「……電話の相手に、バレるかな」
囁くようにそう言うと、澄人くんの肩がびくっと跳ねる。けれど、声は出さない。いや、出せないんだろう。
わざと、指先の角度を変えて、イイところをぎりぎり避けながら、ゆっくりと中を押し広げる。
澄人くんの喉がひくって動いて、息を詰めたまま、じっと耐えてるのがわかった。
「……っ、じゃあ、また連絡する。……おやすみ」
通話が切れた瞬間、澄人くんは大きく息を吐いた。
「……んだよ、さっきの……」
ムッとした澄人くんが、スマホの画面を伏せてベッドの脇に置く。
その仕草を黙って見ていた俺は、そっと彼の顎に指を添えて顔をこちらに向けさせた。
「……誰?」
静かに訊いた。怒ってない、けど優しくもない。
自分でも、声に熱がこもってるのがわかる。
澄人くんは、その熱から目を逸らすように、ほんの少しだけ視線をずらした。
「……会社の、後輩やけど」
ぽつりと答えた澄人くんの声は、どこか言い訳じみていて。
俺は軽く笑って、わざとらしく言ってやる。
「へぇ。さっきの声、甘かったね。俺には聞かせてくれない声だった」
澄人くんの眉がピクリと動いた。なにか言いかけたけど、結局、口を閉じる。
俺は、それ以上詮索しないフリをして、澄人くんの髪に指を通す。
「……ま、いいけど」
軽く笑ってみせたつもりだった。けど胸の奥は、ずっときしんでる。
仮に相手の名前を聞いたところで、顔が浮かぶわけでもないのに――妙に、イラついた。
澄人くんの目がこちらを見たとき――ふっと、視線の奥に色がにじんだ気がした。
焦りか、戸惑いか、罪悪感か。
……それが、嬉しかった。
「可愛いね」
そう呟くと、バツが悪そうに澄人くんは目をそらす。
逃げるように顔を背けても、俺の耳にはちゃんと聞こえてる。その小さな声も、震える吐息も、全部。
「……続き、しようか」
背中をなぞる指先に、澄人くんの肌がピクリと震えた。
「……そうだ、ローションとか……持ってたりする?」
囁きながら聞くと、澄人くんの喉が小さく鳴った。
息を飲んで、数秒の沈黙のあと――
「……ベッドの引き出し。右側」
ぽつりと、途切れそうな声。その目は俺を見ていない。
俺はゆっくりとベッド脇の引き出しに手を伸ばす。取っ手に指をかけて開けた瞬間、中身が目に入る。
……ふうん、ちゃんとあるんだ。
市販のローションに、パッケージの開いた箱。それだけで、頭のどこかがチクリと疼いた。
誰と使ったんだ、そんな言葉が喉まで来て、でも飲み込む。
今は、目の前にいる澄人くんを壊さないように――ただ、じわじわと攻め落としていくタイミングだから。
俺はローションのボトルを片手に、ゆっくりとベッドに戻る。
その目線を逸らさせないようにしながら。
「痛かったら、すぐ言って」
優しく囁きながらも、胸の奥ではざわつく嫉妬がくすぶっていた。
澄人くんは小さく吐息を漏らし、震える声で答えた。
「んっ……ゆっくり、お願い……蓮……」
「……わかったよ」
俺は澄人くんの腰にそっと手を添えて、言われた通りゆっくりと挿入する。焦らず、彼の呼吸を感じながら。
「っ……あ、ぁあっ……」
澄人くんの吐息が次第に深く震えるようになっていく。
言葉にならない声が漏れ、身体が微かに震えるのが手のひら越しに伝わる。
「あっ、それ……だめっ、んっ……」
俺が動くたびに、先端の膨らみがちょうど澄人くんの敏感なところを――的確に刺激しているらしい。
「やっ、あ……っ、そ、こ……っ」
「――やっぱり、ここが弱いんだ」
「んっ……っあぁ、いい……」
「……俺も、気持ちいい、よ」
俺自身も快感の波に呑まれながら、改めて気づいてしまう。
――たぶん、最初に出会ったときから、もう惹かれてたんだと思う。
恋愛がなんなのかなんて、ちゃんとわかってなかったから……気づかないふりをしていたんだと。
澄人くんの呼吸が荒くなり、吐息混じりに震える声が漏れる。
「……っ、蓮……は、優しいよな……」
そう囁かれて、俺はほんの少しだけ胸が熱くなる。
嫉妬の痛みを押し殺して、ただただ優しく触れていた。
「澄人くん……俺、……」
言いかけた言葉は、彼のかすかな喘ぎにかき消される。
「あっ……、な、に……っ、あぁっ……」
苦しげな吐息の合間にこぼれる声に、理性が揺らぐ。
俺は、澄人くんの両肩を包むように掴み、腰を強く押し付ける。
「あっ、あ……、ぁ……」
かすれた声で喘ぐ澄人くんの顔が、すぐ目の前にある。
乱れた吐息が触れそうな距離で、俺の胸を締めつける。
「澄人くんが……好きだよ」
たったひと言。だけど、それが思っていたよりもずっと重かった。
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