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第51話 思わず寄せる心

side 柏木 澄人 ベッドに横たわっていても、頭ん中でぐるぐる回るのは――さっき蓮に告げられた事実。 樹と蓮が双子……信じられへんな。 いや……よく考えたら、あまりにも似すぎてるなと思うときはあった。 「はあ……」 ため息をついた瞬間、蓮が俺の顎に指を当ててきた。 視線を逸らそうとしたのに、蓮の目がまっすぐこちらを見ている。 「澄人くん、俺をちゃんと見て」 その声で心臓がドキッとする。慌てて目を逸らしたら、いきなり唇を押し付けられた。 軽く触れただけなのに、体に電気が走ったようになる。 「やめろって……」 抵抗しているつもりだけど、全然力が入らない。 蓮が耳元で笑う。首筋に息がかかって、思わず体がビクッとした。 「澄人くん、呼吸が荒い」 余裕たっぷりの囁きに、胸の奥が熱くなる。 「……黙れよ」 強がっているけど、全然説得力がない。 蓮の目には意地悪そうな光と、なんだか優しい感じも混じっていて。 無理やりじゃないのに、気がついたら逃げ場がなくなっている。 「強がるところ、可愛いね」 「……可愛くねえし」 否定したのに、声が震えていた。また唇を重ねられて心臓がばくばくする。 ――俺は何をしてるんだ。 樹の顔が頭をよぎる。大事な後輩で、安心できる存在。 それでも今……こうして押し寄せてくる体温に、意識を全部さらわれていく。 「……蓮」 名前を呼んでしまった自分にびっくりする。 けど蓮は嬉しそうに笑って、俺を布団に押し倒した。 「俺は、澄人くんが好きだよ」 低い声で言われて、胸がぎゅっとなる。 そのまま胸に手を回されて、軽く抱き寄せられる。 「……澄人くん」 名前を呼ばれるたび、耳が熱くなる。 頭の片隅にまた樹の顔が浮かぶ。だけどすぐに蓮の声がそれをかき消した。 「……俺だけ見て」 甘い声。もう言い返す言葉が出てこない。胸の奥がきゅっと痛む。 安心させるように抱かれて、蓮が意地悪そうに笑っている。 「……澄人くん。俺も眠くなってきた」 「そうか、蓮、寝てへんよな」 俺からのメッセージを見て、仕事が終わってすぐに駆けつけてくれた。 それから蓮はメイと俺の世話をして、今朝まで一睡もしてないはず。 「ちょっとだけ……寝ていい?」 「……ああ」 横を向いたら、すぐそばに蓮の顔がある。 静かな寝息が聞こえて、さっきのことが一気に思い出される。 ――キス。抱きしめられた温もり。耳元の声。 額に手を当てる。微熱がまだあるみたいで、頭が重い。でもそれより、胸のざわつきが収まらない。 なんで俺は拒めなかったのか。 樹のことを思い出したはずなのに、結局蓮ばかり見ていた。 「……最悪やな……」 呟きながらも、視線はまた蓮に戻る。 寝顔は穏やかで、いつもの余裕たっぷりな表情とは違っている。 こんな姿を見てしまうと、心臓が妙に落ち着かなくなる。 布団から抜け出そうと体を起こしかけて――蓮の手が無意識に俺の服を掴んだ。 「……っ」 思わず止まる。寝てるのに、そんな仕草をされると、どうしても胸が締めつけられる。 「……、」 呼んだ名前は、声にはならなかった。 小さく息を吐いて、また枕に頭を沈める。 近くで感じる体温を拒めない自分が情けなくて、でもどうしようもなく安心もする。 目を閉じながら、ふと思った。 樹も蓮も――どっちも大事で、どっちか選ぶなんて、俺には無理かもしれへんな、と。 今の俺は卑怯な気がする。 二人とも選ばない――そんな選択肢が、少しだけ頭をかすめた。 もう一度まぶたを閉じ、隣の蓮の寝顔を見つめる。 体は暖かく、心はざわついたまま……答えは出せそうにない。

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