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第57話 その声、誰にも聞かせないでくださいよ ※R-18
柏木さんの体温が、シーツ越しにじんわりと伝わってくる。
薄く汗ばんだ肌が俺の手のひらから逃げるたび、どうしても触れたくなる衝動が湧き上がる。
「なぁ……おまえ、さっきからニヤニヤしすぎ」
軽く息の混じった声でそう言われて、俺は思わずさらに笑みを深める。
ああ、やっぱりこういう反応も可愛いな、と心の中で呟きながら。
「すみません。柏木さんが可愛くて、つい……」
「可愛くねえし。……その言い方、なんか腹立つんやけど」
「褒めてるんですけどね。じゃあ……“色っぽい”に変えましょうか?」
「……やめろ」
慌てたように布団に潜ろうとする柏木さんを、俺は片手で優しく引き寄せる。
「柏木さん、そんな顔されると……意地悪したくなります」
「ほんま、その性格なんとかしろ……」
かわいいな、とまた思いながら、柏木さんがいつもゴムを入れているベッドサイドの引き出しをそっと開ける。
「ん?」
中に見えたのは、見覚えのない怪しい箱だった。
「柏木さん、これ……なんですか?」
「あ! それはっ……」
恐る恐る箱を取り出して開けると、中には大人の玩具が収まっていた。
「え……柏木さんがこういうの持ってるなんて意外でした。まさか、自分で使うために買ったんですか?」
「違う、もらったやつな!」
その言葉を遮るように、俺はにこりと微笑むと、振動をそっとオンにする。
掌に伝わる微かな振動。それだけで、柏木さんの体がビクリと跳ねるのがわかる。
「柏木さんがどんな風に感じるのか、ちゃんと見せてください」
「その言い方やめろや、って、あ……っ……!」
そっと後ろに当てると、体が跳ねる。
振動が肌の奥に伝わるたび、枕を抱え込み唇を噛む柏木さん。
「ばかっ、ぅ…、んっ、あ……やめ……」
「柏木さん、玩具にそんな声出してるなんて……俺、ちょっとヤキモチ焼いちゃいますよ」
「アホか……っ、誰が、ああ……っ」
俺がゆっくり玩具を挿入していくと、柏木さんの口からひっきりなしに声が漏れた。
布団をぎゅっと掴む指に力が入っているのがわかる。
「こうして動かしたら、気持ちいい?」
「いや、あっ……やめ、ろや……あっ、だめ、やって……」
「柏木さんさぁ、俺じゃなくて、こんなもので気持ちよくなってるなんて……ちょっとショックです」
胸の奥がじわりと痛み、熱を孕む感覚に襲われる。
「……俺よりこんな冷たい玩具の方がいいんですか?」
「っ、んなわけ……!」
玩具をゆっくり抜くと、柏木さんが微かに名残惜しそうに息を吐いた。
その仕草を見逃さず、俺は思わず呟く。
「……なんか……悔しいですね」
柏木さんが少しだけ目を見開く。
「樹……?」
「こんなのに、柏木さんの身体を取られるの、我慢できません。……俺じゃダメですか?」
唇を近づけ囁くと、柏木さんは驚いたように俺の顔を見上げる。
「俺だけを見てください」
玩具はベッドに放り出し、今度は自分の指で触れる。
ぴくりと跳ねて漏れる声が、俺の胸を熱くする。
「……はぁっ……あっ」
「ほら……ちゃんと、俺の指で身体が反応してる」
「う、うるさい……っ、もう、やめ……!」
「まだやめません。もっともっと気持ちよくさせますから」
耳元で低く囁き、再び深く触れる。
熱くなった肌と肌が触れ合い、柏木さんの細い指が俺のシャツをぎゅっと掴んで離さない。
「樹……ほんま、ズルい……」
「ズルくてもいいです」
その瞳が揺れる様に胸の奥がチクリと痛み、同時に熱が込み上げる。
照れくさそうに目を逸らす柏木さんの腕は、しっかり俺を掴んで離さない。
「……俺の声で、俺が、柏木さんをぐちゃぐちゃにしたいんです」
「……っ、……」
胸が上下し、顔はすっかり赤い。
だけど、手が触れても押し返さず逃げようともしない。
「おまえ、ドSか……」
「はい。柏木さん限定で」
「自覚あるやつが一番たち悪ぃ……」
拒絶する声とは裏腹に、視線は俺の手を追っている。
わかりやすいくらいに可愛い。その反応が、さらに意地悪心を煽る。
「じゃあ、どうしましょう。何もしないまま、今日はおやすみにします?」
「……は?」
「無理矢理するのも申し訳ないですし」
「……っ……おまえ、ほんまに……ずる、」
「でもそれ、柏木さんのせいです。そんな顔されたら、焦らしたくもなります」
「どうします? 我慢します?」
「……く、っ……」
しばらく唇を噛んでいた彼が、ぽつりと俺の名前を呼んだ。
「樹……もう、好きにしろ……」
「はい。遠慮なく」
それは許可でもあり、降参でもあるみたいだった。
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