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第60話 真実の片鱗

ぼんやりと考えていると、ふと思い出した。 「……そういえば、大阪だったよな」 小さくつぶやくと、蓮が振り返る。 「え?」 「俺の……気になってた人さ、大阪出身で、標準語を話すように意識してるって言ってた。でも時々関西弁が出ちゃってて」 蓮はソファーに腰を下ろし、俺の方を見た。 「それで?」 「……その関西弁が可愛いんだ」 観念したように、俺も隣に座る。もう隠す意味もない気がした。 「その人のこと、やばいくらい好き……」 認めると、蓮がくすりと笑った。 「……なあ、その人さ、猫飼ってるだろ?」 突然の問いに、俺は目を見開く。 「え? なんで分かるの?」 「なかなか甘えてこない。でも、たまに素直なのが可愛い」 図星すぎて、言葉が出ない。心臓の音が大きくなってくる。 「だから、なんで……そんなこと分かるんだよ」 蓮は少し意地悪そうに笑った。 「……わかるよ。それで、なんて呼んでるの? その人のこと」 なんだか、誘導されているような気がする。 でも、もう隠す理由もなくて―― 「……柏木さん」 その瞬間、蓮の口元がにやりと歪んだ。俺の胸が嫌な予感で騒ぎ始める。 「柏木さん、か。慣れないなあ、その呼び方」 「なに言ってんだよ」 蓮の表情に、何か確信めいたものが浮かんでいる。 「やっぱり名前で呼びたいじゃん」 「意味わかんねえよ」 そして、決定的な一言。 「“澄人くん”だろ」 「は?」 今度は真正面から見つめられて、胸がざわつく。 「澄人くん……って」 言いかけて気づいた。 蓮の表情。まるで答えを知ってるような、確信に満ちた顔。 「柏木澄人……柏木さんのこと……?」 蓮はゆっくりと頷く。血の気が一気に引いた。 「な、なんで? なんで蓮が柏木さんのこと知ってんのさ。どういうこと?」 動揺する俺を見て、蓮が口を開く。 「……非日常感の体験」 「え?」 「樹の会社、ブルーム・プランニングの企画でさ。澄人くんが視察で来たんだよ、うちのホストクラブに」 頭が混乱する。 企画? 視察? ホストクラブ? まさか―― 「ちょっと待てよ……つまり、柏木さんが蓮の働いてるホストクラブに行ったの?」 「そういうこと」 あっさりと答える蓮。 でも、その表情にはどこか複雑なものが混じっていた。 「それで……蓮は柏木さんと知り合って……」 言葉が詰まる。聞きたくない答えが返ってきそうで。 「樹さ、自分から澄人くんのこと言わないんだもん。いつまで濁すつもりだったわけ?」 蓮は相変わらずソファーに座ったまま、涼しい顔をしている。 でも、次の言葉が俺の心臓を凍らせた。 「……樹が大阪に異動しちゃったら、俺が澄人くんを独り占めできるけどね」 今度は俺の方が完全に困惑した。 「……待て、どういう意味だよ」 蓮の口元に、いつもの意地悪な笑みが浮かぶ。 「樹は本当に鈍いね」 その言葉が、まるで謎かけのように聞こえる。 でも、その表情を見ていると――何か、とても大切なことを隠しているような気がした。 胸の奥で、嫌な予感がどんどん大きくなっていく。 「蓮、まさかお前も……」 声が震える。 「ん?」 「柏木さんのこと……」 言いかけて、俺は言葉を飲み込んだ。 蓮の表情が、一瞬だけ揺れたのを見逃さなかった。 沈黙が部屋を包む。その静寂が、余計に不安を煽る。 蓮と柏木さんの関係は、俺が思っているよりもずっと深いのかもしれない。 いや――もしかして。 心臓が激しく鳴り出す。 考えたくない可能性が、頭の中でゆっくりと形を成し始めていた。

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