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爆ぜ
天の川の畔で膝を抱き、蹲る自分の背が過ぎる。
物心ついた時から共に月日を重ねてきた牛が病に罹り、初めての別離を経験した時、
牛飼いの家畜のことであるのに、声のない啜り泣きを同じく膝に閉じこめていたのは、隣の小さな翠流だった。
労苦の多い農耕生活のなかで、こころを手放したようによく夜空を見上げた。
宙からの星風のように、翠流はいつしか添っていて、細いあえかな指を天空へ伸ばす。
あれは、牽牛みたいな牛飼いの星座だよ。あの王子星は姫様を追いかけている。対になってるあの星雲は、仲良しの双子……。
地上でただ天を見上げているだけでは、知らなかった愉しい夢神話が拡がっていた。翠流でしか、与えられなかった癒えとひとときだった。
織女は、どうだったのか。彼女は、その御足 を土に着けることは決してなかった。
花のような香気で包みこむ風情でありながら、家畜が傍に在れば袖で顔を覆い、相見えればこの肌を、何より先に柔らかな性急さで求めた。
…………俺は、『何』を見ていたのか?
そして、 俺を見ていたのは——。
裡 で巡りはじめた問いは、翠流の優しい囁きで溶かされた。
「でも、大丈夫……」
浄らかだと思っていた眼許が、またいろのついた薄紅に滲む。
「僕の大事な牽牛は、きっと、誰といたとしても、ずっとずっと変わらない……」
声にも、刹那の、濡れた恋情が絡んでいて、下帯に指を掛けられたのは察知していた。
いままで知ってきたどんな芙蓉とも違う、蓮の花のような馨 しさが近づいてきて、
それが自分の唇に、生きて熱い、滑 った感触を与えてくると思っていたのに、
星の欠片が、初めての恋におそれるように、
指で指に、ふれてくるような。
牽牛の顎に、翠流の躑躅 色の唇が、
爪先から横顔にかけて、星に指で辿るよりなお懸命に伸びて、 そっと、届いた。
ふるえている。
禁忌を犯した、罪悪なのか。
それとも肌を曝けだしながら、はじめての恋と熱におびえる、生まれたての暁星 であるのか。
吐息と、熱と、いとしさの限りでまた翠流の潤いで巡らされていくようで、
牽牛の意識と上空の星の紅い爆ぜとが、一体となって、眩んだ。
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